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三年後
犯人の家族が出ていった家。
引っ越して誰もいなくなった芽実の家。
ほどなくして二軒が取り壊されるや否や、周囲はあっという間に「はるか昔のこと」として扱い始める。
芽実をチヤホヤしていた男子達は、中学に入った途端すぐに新しい美人を見つけた。
「こんなに早く忘れられちゃうんだ」
あつらえたばかりの制服で、恵理那は桜の前にいた。
――あんたって何のために生きてんの?
もう姉の言葉なんか怖くない。
なぜなら。
階段を上り、恵里那は今日もアパートのドアを叩く。
「こんにちは。お母さん」
ドアを開けた女性はがくりと両肩を落とした。
「最後のお願いに来たんだけど!」
「あなた……前にもそう言ったわよね」
「あれ? そうだっけ」
恵里那はけたけたと笑う。
家を追い出され、自ら願って引きずり込まれにきたアパートの踊り場に、一人の女性が屈み込んでいた。
あの時の興奮。
ああ、もう帰らなくていいんだ。
恵里那の人生で、一番幸せな瞬間だったかもしれなかった。
これで男の子を捜してあげれば、ずっとあの優しい女の人と暮らせる。
目を合わせようと進み出たら、気づいた「お母さん」がギョッとして何かを滑り落とした。
恵里那の前にどさりと降ってきた黒いポリ袋の中に、乾いたマネキンの一部が覗いて。
その意味を知った時、恵里那の希望は打ち砕かれたのだ。
わが子を捜して住み続けていた優しいお母さんは、
この女じゃなかった‥‥‥。
まるでお鍋で煮るようにお風呂で〇体を煮詰めれば、大人であってもそれなりに縮んで小さくなる。
敢えて目立つように振る舞えばかえって人は避け、その人に注意を払わなくなる。
その種のサイトの中に、思い当たる情報があった。
こいつはアパートの噂を逆手に取って、それらしく振る舞っていたただのひとごろし。
求めた光など、最初から存在しなかったのだ。
おまえがここで「希望の人」の振りなんかしなければ。
高みに達した怒りは、逆に人を冷静にする。
これはどこに書いてあったんだっけ。
恵里那はポリ袋を掴んで一気に階段を駆け上がる。
「はい! 落としたよお人形さん」
女の口がぽかんと下がり、やがて急激な安堵に頬が動いた。
「あ、ありがとう!」
なんて間抜けた面なのかしら。
お姉ちゃんも芽実も、こんな気持ちで私を見ていたのかな。
「でもぉ、ずいぶん大きなお人形だね」
──黙ッテテアゲルカラオ願イ聞イテクレル?
耳元で囁くと、女の顔筋が固まった。
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