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門出
「今度はこの子をお人形さんにしてよ」
ポケットから写真を取り出すと、恵里那は飯田芽実を指名した時のように、集合写真に写る一人の女の子を赤ペンで囲む。
あの時、おそらく「お母さん」が実行に移したのは、芽実を人目につかない場所に移動させたことだけだろう。
でも実際に芽実はいなくなったのだ。
誰にも見つけてもらえずに、あんなところでたった一人で。
こんな素敵なことがこの世に起こるなんて!
新しい写真を見せられた女は顔色を変える。
「だめよあなた! いくらなんでも……そんな」
ヒュッ
女は息を呑みこんですぐに黙った。
「なにを今さら常識人ぶってんの?」
壁に張りついた女の顔の真横には、恵里那のコンパスが突き刺さっていた。
──私の聖母を穢した罪を、あんたは一生償うんだよ。
「じゃ。今度こそ、これでほんとにチャラだから」
大切な宝を喪って、死んだ方がマシだと思う人生を母はどのくらい耐えることができるだろう。
恵里那は晴れ晴れと角を曲がった。
日が陰り、ぬるい風が彼女の髪に、べたりと花びらを散らした。
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