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「医者を呼んでください……お、お願いします……」
深夜残業からの帰り道。人気の無い道路の端にうずくまっていた影が、めちゃくちゃ苦しそうな声ですがりついてきたものだから、あたしは喉の奥まで出かかった悲鳴を、ご近所迷惑を考えて必死に呑み込んだ。
「この名刺の……この医者に、電話してください……。だ、大丈夫。彼は夜間診療専門なので……必ず出ます……」
街灯に照らされるのは、二十代後半くらいの青年。息も絶え絶えに名刺を差し出してくるその顔は真っ青。指先は血が通ってないかのように白い。実際、名刺を受け取る時に手が触れ合ったら、氷でも触ったんじゃないかってくらいひやっとして、びっくりした。
夜闇に紛れて女性を襲う変態の可能性も考え、青年の挙動を意識しながら、スマホを取り出し、名刺に書かれている電話番号を打ち込む。
数回のコール音の後。
『はい? 宵凪診療所だけど?』
ものすごーーーーーく機嫌が悪そうな男性が応対したので、多少びくつきながら声を発する。
「あ、あの、すいません。氷野目町三丁目で、あなたに電話してくれって、すごく苦しそうな男性に頼まれたのですが」
途端。
『ッハアーーーーーーーー!!』
スピーカーを入れていないのに鼓膜を突き破りそうな大音声がスマホから放たれて、あたしは思わず耳を遠ざける。だが。
『あンのバカ! まーたトマトジュースで過ごしてたな!?』
電話の向こうの男性が発した単語に、思わず胡乱な顔をする。
『そこにいるバカに言え! 五分で行くから動くな喋るな横になってろ! とな!!』
そこで通話はプツンと切れて、ツー、ツー、と終話を告げる無情な音が残るばかり。
「ああ……すいません。彼は、いつもそうなんです……」
呆然とするあたしに、青年が胸をおさえながら力無く笑いかける。そして、あたしの思考が一瞬停止するような発言をした。
いわく。
「僕が、ダメダメな吸血鬼だから……」
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