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助かった。
それを認識した途端、全身からどっと力が抜けて、あたしはへなへなと地面にへたり込んでしまった。
「だ、大丈夫ですか!?」
最前までの冷酷さが嘘のように、また頼りなさそうな青年の声に戻ったクライブが、あたしの両肩をつかんで、倒れ込みそうなところを支えてくれる。
「ったくよ」
宵凪医師ががりがり頭をかきながら、ぶつぶつぼやく。
「ちゃんと血を飲めば、あれくらいの力を出せる純血吸血鬼なんだから、嫌いだの不味いだの言わずに、ちゃんと飲めや。今は政府に言えば、幾らでも輸血パックを回してくれるんだからよ」
「吐きたくなるからやだあああああ」
駄々っ子のように首を振るクライブは、さっきの夜の王みたいな態度が嘘のようだ。子供じみた態度の綺麗な顔を見つめていると。
「あ」
彼の冷たい指が、あたしの首から流れ出していたものに触れる。
「本当にすみません……僕のせいで怪我までさせちゃって」
そう言って彼は、血を拭った指をぺろりと舐める。
「「あ」」
あたしと宵凪医師の声がハモった。いや、やばいでしょそれ。それ、血だよ。また吐くんじゃないの?
あたしたちの懸念はしかし、裏切られることとなった。クライブは、無意識にした自分の行動に驚いているのか、しばらく硬直していた。が。
「……美味しい」
信じられない、とばかりに、その一言を零したのだ。
「人の血が美味しいなんて初めてです!」
がばり、と、あたしの身体が冷たい腕に包み込まれる。
「きっとあなたは僕の運命の女性なんだ! 四百年探し続けていました! 僕の花嫁になってください!」
「ッハアーーーーー!?」
「クライブこのボンクラ吸血鬼! 段取りすっ飛ばして一般人巻き込むな!!」
とうとうご近所迷惑が頭から吹っ飛んだ、素っ頓狂な声があたしの口からほとばしり、宵凪医師が岩のような拳をクライブの頬に叩き込んで、彼の細身が華麗に吹っ飛んだ。
これがあたしの、ベジタリアン吸血鬼とフランケンシュタイン医師との出会い。
そして、『闇王』にまつわる夜の一族の戦いに巻き込まれる、最初の話であった。
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