幸せの向こう側 ⑭

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幸せの向こう側 ⑭

乳児院の車にあらたくんが乗る お父さんも乳児院へ行くらしい 僕はカバンの中からあらたくん用に丹精込めて作った クローバーのキーホルダーをお父さんに手渡した 僕たちと女子高生 そして看護師さんと婦長さんで盛大に見送る 女子高生は、生命誕生を間近に見て 自分の将来を決めた希望に満ちたような晴れ晴れした顔で見送る 僕は…もしかしたら僕らが育てられるかもと 妙に期待をしてしまったが為のちょっとしたら落胆した顔で見送る 「「あらた」」 慶太と同じタイミングで名前を呼んでしまい 僕は、泣かないって決めてたはずなのに涙が溢れて来た 慶太が僕を後ろから胸元に引き寄せ 僕の顔の隣に慶太の顔がある状態 「あらたが見えなくなるまで泣くな。あらたの本当の新しい門出だぞ、名付け親さん」 大きく息を吸い込み口角をあげる 育てられなくても あの子に一緒付きまとう名前を付けた人として 彼の人生に関わった人間として見送らなければ… 「では、皆さんお世話になりました。ありがとうございます」 あらたくんのお父さんが車に乗り込む 助手席の乳児院の職員さんが パワーウィンドウを下げ 「では、皆さん。あらたくんお預かりします。」 と、言い車は走り去る 皆、手を振りあらたくんの前途を祝した 車が見えなくなるまで手を振り続けた 帰りの車の中 僕が想像以上に落ち込んでいるように見えた慶太が声をかけてきた 「ネコでも飼うか」 そう、あの日ネコだったら飼う気になっていた 「ん…考えてみる」 僕は、窓の外を見つめ ただ、ただ山並みが流れるのを見つめていた そんな事をしていたら僕たちの家が見えてきた そこには、自動車の音に気が付いたのか あっきーが手を振りながらぴょんぴょん跳ねてる 車を降りたら大きな声で 「まきちゃ~ん、お帰り~ じゅーでん!!」 「「じゅー」」 僕は、あっきーとおもいっきりハグをする ああ、僕の家に帰って来たなって心から思えた ほんの数日の出来事なのに 随分と長いこと関わっているような気になっている 「まきちゃん、大丈夫?疲れた?」 あっきーが僕を覗き込む 「大丈夫だよ、あっきーの顔見たらなんか元気出てきた」 あっきーは、にっこり笑う 「あのね、今日まきちゃんも好きなハンバーグ作ったから食べてってお母さん言ってた」 久実ちゃんにも気を使わせてしまった… そんなこんなで僕の赤ちゃん騒動は幕を閉じた
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