鎹 ⑦久実&良彬

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鎹 ⑦久実&良彬

看護師さんに部屋の外に出るように言われ 私と良彬は、サッと出てきた 「あれ?柾は?」 良彬がキョロキョロする 「あ~もしかしたら部屋かも…」 「えっ、二人とも部屋の中!?」 「もしかすると…ってか、絶対中だよね」 久実の声がちょっと引きつっている 「ほら、なか捕まる所何も無いじゃない…だから踏ん張るのに手摺りとか、綱とか欲しいんだよ」 「綱!?」 「江戸時代のお城での出産は、部屋に荒縄が垂れ下がっててそこに捕まって出産したらしいよ?」 「何かいつの時代も出産ってすげえな…」 「そうだよ、いつの時代も出産は、変わらないんだよ」 「大変なんだな…なんか亜紀斗生む時思い出してきた…」 「思い出して来た?」 「うん…俺、ビビってたな」 「けど、無茶苦茶優しかったよ。今でも覚えてるよ『俺の勝手で家族欲しくなってこんなに痛い目に合わせてごめん、替わってやりたい』あれ、痛みの中だったけど嬉しかった」 「けど、『お前!!早く替われ交替しろ』って叫んだよね?」 「そうだっけ?忘れちゃった」 笑いながら良彬を見た 「ね、久実…弟妹作らない?」 ハグをしながら聞いてみた 「良彬…ごめん、勘弁して…子育てもう無理よ」 「…そっか」 シュンってする良彬見て 「けど、いつまでも一緒に寝ようね」 笑顔を向けてみた 「も~久実ちゃ~ん、よろこんでー!!」 ニヤニヤが止まらない良彬 「も~、どこの居酒屋よ~」 お互い笑いが止まらない ━ハアハアハアハア━ 「あ、平松さん!」 「おっせーよ!!お父さん!!」 走って来たであろう和臣君に激を飛ばす 「まだ?まだ?間に合ってる!?優里ちゃんは!?」 「まだみたい…ただ、この唸り声優里ちゃんみたいよ」 ガラッと扉が開く 「高見沢さんのご主人まだ着きませんか?」 看護師さんが叫ぶ 「は、はいっ!僕です!!高見沢和臣です!」 サッカーチームに所属している小学生か!って位の大きな返事 看護師さんが紙の割烹着を着けさせる 頭に紙のネットみたいなのを着けさせる 手は、アルコール消毒させて 医療用のラテックスをはめられた 「高見沢さん、まもなく生まれます。今、柾君達が人柱になってくれてます。お父さんは、赤ちゃん生まれたら臍の緒切ってもらいます」 看護師の淡々とした抑揚の無い喋りが頭の中をリフレインする 抑揚の無い喋りって他人を冷静にさせるんだ… そう思いながら高見沢を見送った 「久実…聞いた?あの看護師さん柾と慶太『人柱』って言ったよ!」 そう言って良彬は苦笑いしてた 「うん、多分二人につかまって出産しているだろうからね、人柱には間違いないはず」 薄ら笑いしている久実がなんか怖い そんな事をしていたら 「「あっ」」 「生まれたな」 「うん、生まれたね」 「なんか本当にお母さんって凄いな」 「そう?お父さんも凄いよ?」 こうして高見沢家の赤ん坊が生まれた日 平松家の夫婦愛も深まった日になった
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