鎹達

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鎹達

柾side 「もしもし、母さん?」 『あら、柾?どうしたの?』 久しぶりに電話した 「ん?声が聞きたくなった…」 『いやだ…何言ってるの?』 母さんがちょっと困惑してる声になった 「ん…」 『ん?何?慶太君と喧嘩でもした?柾は、ちょっと頑固なんだから、ささっと謝っちゃいなさい』 どうも僕が慶太と喧嘩したと思ってるみたい それも僕に非があるみたい 「違うよ」 『ん?じゃあ、何? あっ!借金の申し込み!?』 ああ、僕の事色々心配してくれているんだって思うと笑いが込み上げちゃう 「違うよ、あのさ…あのさ…」 『………』 「あのさ、母さん。ありがとう」 『やだっ、急に…何!?』 また、涙声にさせちゃった 「あのね、この前偶然になんだけどお産に立ち会ったんだ」 『え?お産?犬?猫?あっ、ハムスター?』 だよね、そう思うよね 「違うよ、人間。ニュースにもなったから知ってるかな?ホテルのトイレで赤ちゃん生んだって話」 『あ、知ってる!!女子高生に預けてって話でしょ』 「うん、その女子高生から赤ちゃん受け取ったの僕なんだ」 『え!?それは…何だか凄いわね』 「うん。赤ちゃんって軽くて、小さいさくて、愛おしい存在だなって思ったんだ」 『ええ』 笑わないで聞いてくれてる 「それとお世話になってる所の奥さんと友達とでランチしてたら友達が急に産気づいてそのままお産になっちゃって慶太と二人で妊婦さんに捕まれてそのまま出産になっちゃってさ…」 『うん』 「で、お母さん達の強さってアレがあってのモノなんだなって思ったら声聞きたくなった」 『ありがとう、柾』 「僕を生んでくれてありがとう」 この言葉伝えたかった 慶太 side 『あら、珍しいどうしたの?』 最近のスマートフォンは、画面に名前出たりするからな こちらが声を発する前に出鼻を挫かれた 「あ~、元気?」 『勿論、そっちは?柾くんに飽きられてない?』 ……余計なお世話だ 「大丈夫な、はず」 『そ?よかったわ。返品不可って伝えておいて』 母は笑ってる 「あのさ…」 『何?今日、私出掛けるのよ』 「あ~……ん~」 『何?言いづらい事?』 「いや、そんなには言いづらくは無い」 『じゃあ、何?』 「えーっと……」 『慶太!!あんた柾くん泣かすような事してるの!?』 「…してません」 『じゃあ、何!?』 ちょっとキレ気味になった母に早口で伝えた 「母さん、生んでくれてありがとう」 頭の先から爪先まで変な汗が出た 柾に告白したより恥ずかしい 『はっ!?慶太?どうしたの?けい…』 聞いていられなくて電話を切った ふぅ…こんな年になり母に ありがとうなんて恥ずかしい けど、母も満更ではなかったはず 勝手に都合のいい脳内変換し 伸びをして愛する人を呼ぶ 「柾~!!柾ち~ゃん!!お散歩行こう」 生きてるってなんだか凄いと思った
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