すぺくりいけつぅ

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すぺくりいけつぅ

「菅野!!社食って何でもあるんだね」 「ああ、外の定食屋と変わらないな」 俺たちは、初めて入るこのビルの社員食堂にワクワクしてる いや、瑞樹ちゃんがワクワクしてるから 俺もその顔を見てワクワクしてるんだな 「菅野は、どれにする?」 ここのディスプレイには、今日出せる本物が置いてある 「どうしようかな…瑞樹ちゃんは、決まった?」 「ん?僕は、あれにする」 「どれ?」 「スペシャル定食 クリスマスバージョンって言うの」 指をさす サラダの上にローストビーフ フライドチキンとポテト バゲットとクラムチャウダー ミニケーキとお楽しみ …? お楽しみって何? 「お楽しみってなんだ?」 口から声が出ちゃった 「うん、僕もわからないから頼んでみようと思ったんだ。 前の僕ならわからないのは、回避してると思うんだけど 最近わからない事は、チャレンジも面白いかと思うようになったから。 けど、まだこんな小さな事しかチャレンジ出来ないけど」 肩をすくめて微笑む瑞樹ちゃんは天使だ 「じゃ、俺も」 食券を買い 注文のおばちゃんに券を渡す 「すぺくりいけつぅ・お盆持って進んで」 なんだ? 不思議な暗号を叫んだ トレーを持ち進んで行くと 「はい、サラダね」 顔をじっと見られた 「スープどうぞ」 この人も見てくる 「チキン揚げたてよ」 笑顔で見てくる 「パンどーぞ」 この人も見る? 「はい、ケーキ」 やっぱり見られた なんかイヤな感じはしないけど…うん? そして「お楽しみ」が出てた ああ、小分けされてるお菓子が沢山入ったカゴ 「おひとつどうぞ」って書いてある 「菅野!!お楽しみってこれなんだ」 瑞樹ちゃんニコニコしてる 「ちょっと━」 食券を渡したおばちゃんが叫んだ 「『いけつぅ』だから!」 厨房もフロアーで食べている人達が 全員こちらを見た 「久しぶりだね、いけ」 「それもつぅだよ、つぅ」 ザワザワしてきた 「か、菅野…」 瑞樹ちゃんが周りの雰囲気を直ぐ様キャッチしてしまった 「瑞樹ちゃん、大丈夫」 小声で勇気付けた 「キャー、そうだった!失礼しました。こちらどーぞー」 そう言って出て来たのは 小分けお菓子が沢山入った包み 「いけには特別」 カウンターのおば様に言われた 「あ、後ろのいけにはこっち」 俺のは、小分け和菓子の包み 「「えっ…」」 二人で驚いた顔をしてしまったらしい 「いいの、いいの。仕事の張り合いよ。ハッピーホリデー」 俺と瑞樹ちゃんは、カウンター振り向き一礼して ありがたく受け取った おばちゃん達皆、手を止めて 手をフリフリしてくれた 窓近くに座り外を見ながら食事をする 近くに座ったショップの店員さんが話しかけてきた 「お兄さん達、良かったね。おばちゃん達のお眼鏡にかなったね」 「ん?何の事?」 「ソレだよ~」 指でお菓子をさされた 「あのね、すぺくりいけつぅって言ってたでしょ」 うん、言ってた 「すぺが、スペシャルセット くりがクリスマス いけがぁ~」 …いけがぁ? 「いけが、イケメン来た の、略なんだよ」 笑いながら教えてくれた 「あの~つぅってなんですか?」 つぅがわからないで聞いてみた 「ああ、twoね。two。2だよ、2 クリスマススペシャルを頼んだイケメン二人って事。 おばちゃん達、発音悪いからね」 笑いながら解説された この社食、イベント事にこう言うプレゼントをしていて ここを利用する人にこうやって還元しているんだって 「それ、誰にあげたかわからなくならないんですかね?」 素朴な疑問をぶつけた 「あのね、外部の人と働いている人の区別はつくし、おばちゃん達、多分店員の顔覚えているんだよ」 「ええっ!?凄い人達ですね」 本気で驚いた 「まず、外部と働いている人の違いは、首から下げてるIDカードの紐の色だよ。赤が外部・青がビル登録者」 「ああ、なるほど!!」 単純な事だけど感心してしまった 「おばちゃん達の記憶力凄いからね。皆、何と無く色々もらっているんだよ。けど、一つ間違えると立派なセクハラだよね~この時代だと」 笑いが止まらないらしい おばちゃん達も好みがあるらしく 「イケ」って言われても なかなかココまでのお菓子もらえないらしい 俺と瑞樹ちゃんは、赤くなったり笑えたりして このビルの社員食堂を楽しんだ 瑞樹ちゃんも俺も 愛しい人にお土産が出来た 「おばちゃん達にモテモテ」な話は …内緒だな なっ、瑞樹ちゃん その後、俺と瑞樹ちゃんは お礼として小さな花束おばちゃんの人数分と 社食に飾って欲しいなってリースを届けた おばちゃん達が黄色い声をあげて喜んでくれた 俺ら、アイドルになった気分になったのは… ちょっと嬉しいような、恥ずかしいような気分にさせられた
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