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「奏汰が腕を引いて、俺は尻餅をついた。そこで怒られたんだ」
「そうだったかなぁ」
「ああ。凄い剣幕で、僕より年上なんだから、しっかりしてくださいってね」
「そういえば、そんなこと言ったかも。生意気な子供だと思ったでしょ?」
「そんなことない。雷が鳴ってないのに、俺の中では雷が落ちたぐらいの衝撃だった。だって、奏汰は男に見えないぐらい綺麗だったから」
「大袈裟だよ」
「そんなことない。今だって、変わらないぐらい綺麗だよ」
僕の手を握り、裕貴さんが僕の目を覗き込む。本当だったら、キスぐらいしたい。だけど、録音されていることを思いだし、僕はそれとなく身を引く。
「それから? どうなったんだっけ?」
僕が乗り気じゃないと分かると、裕貴さんは少しだけ不満そうな顔をした。それから諦めて、続きを口にする。
「それから、奏汰が傘を差し出してきて、俺を家まで送り届けてくれたんだ。俺はお礼がしたいって言って、断る奏汰をむりやり家にあげたんだ。それで色んな話をして、連絡先を交換して……あの時、俺は今までにないぐらい必死だったと思う」
それから照れたように、「がっつきすぎだって、思ったんじゃないのか?」と窺うように僕を見る。
「うん。そう思ってたと思う」
僕が頷くと「やっぱりね」と、裕貴さんが困ったように笑う。
「初めての恋愛だったから、セーブの仕方が分からなかったんだ」
「良いと思うよ。裕貴さんらしくて」
裕貴さんは、こうと決めたら突っ走る節がある。だから僕も、そんな裕貴さんの行動力や好奇心に溢れている姿が好きだったのだ。
「そうかな。ありがとう」
僕の手を強くにぎり、裕貴さんが笑う。温かくて大きな手に包まれ、ずっとこのままだったら良いのにだなんて、僕は叶わない事を願っていた。
その時、扉をノックする音が聞こえて、僕は裕貴さんの手から逃れる。
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