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月山さんはゆっくりと資料を見ると、口元を綻ばせた。
「よくなりました。ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ、すみませんでした。いつもご迷惑をおかけして」
「え?」
月山さんが心底不思議そうな顔で、聞き返す。
「わたしのミスが多いから、わたしに言うんですよね?」
チームの人間なら、誰でもいいはずだ。修正するのは、誰だってできる。
「違いますよ」
月山さんは怒ったように言った。
「篠山さんが一番丁寧に仕上げてくれるからです。こちらの言い分をきちんと聞いて、こちらの思い通りのものに仕上げてくれる。僕ほど細かい要求を聞いてくれるのは、篠山さんだけです」
こころは吹き出しそうになった。
月山さんは自分が細かいと分かっているんだな。
しかも聞いてくれるのがわたししかいないと知って、わたしに頼んできていたのか。
要するに、なんでもやってくれる便利屋扱いではないか。
だけど、悪くない。
「月山さん」
「はい?」
「今度ごはん奢って下さい」
月山さんは一瞬真顔になり、その後ふわりと笑った。
「いいですよ。何が食べたいですか?」
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