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「よし、できた」
こころは資料を重ね、ホチキスで留めた。
「あー、肩死んだー」と由紀子は肩をグルグル回している。
壁の上の方に掛かった時計を見上げると、十時をまわっていた。
「本当に、ごめん、由紀子。ありがとう、今度なんか奢る」
手を合わせて由紀子を拝むと、「やった」と言ってすぐに、「いや?」と器用に首を振った。
「月山さんに奢らせよう。無茶言いやがって」
腕を組む由紀子に、こころは困ったように言った。
「でも、月山さんが頼んできたことに、余計な事なんてなかったよ。資料は確かによりよくなった。よりよくなったことで、交渉がうまくいくかもしれない。これは営業する人の武器だからさ」
こころがそう言うと、由紀子はにこっと笑った。
「こころのそういうところが好きだから、わたしは手伝ったんだよ」
こころは赤面して、言葉を失う。
「あ、ありがと」
絞り出したお礼の言葉に、由紀子は「いいよ」と笑いながら、帰ろうと先に歩き出した。
かっこいいな。
そう思ってから、あれ?と由紀子の後ろ姿を凝視する。
誰かに似ているな。
しばらくその背中を見つめていて、「あ」と思わず小さく叫ぶ。
お母さんだ。
そう合点して、すぐに恥ずかしさのあまり目を逸らす。
いい年をして、お母さんと友達を重ねるなんて。
「なに?どうした?」
ついて来ないこころを不審に思って、由紀子が振り返った。
「ううん、なんでもない。帰ろう」
こころは慌てて、カバンと上着を抱えて、由紀子に追いつく。
月山さんは、出来上がったものを見て、どういう反応をするかな。
明日が楽しみだ。
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