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手に持った文庫本を机の隅に置いて、コーヒーを飲んだ。
春の昼下がりに中年の男が一人、純愛について考える事自体も非現実的な事のようだ。
車の音がして私はガレージを見た。
赤いアウディが入って来ている。上杉さんがやって来た様だった。
おかしいな。
今日は来ないと言っていた筈なのに…。
私は、立ち上がり、玄関へと向かった。
玄関の鍵を開けると上杉さんが立っていた。
「先生。済みません。今日は来ないつもりだったんですけど」
と荷物を両手に持ってドアの隙間から割り込む様に入って来た。
「いえいえ、それは良いのですが、どうされたんですか…」
私は上杉さんの持つ荷物を手に取り、ダイニングへと先に入った。
「どうもこうもありませんよ…」
上杉さんはテーブルの上に荷物を置いて、大きく息を吐きながら椅子に座った。
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