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第4章 雨降って地固まる
夏休みが明けても私は森崎君を避け続けていた。授業以外の時間は教室を離れて授業ギリギリに帰ってくる。そんな孤独で退屈な日々を送り始めて数週間が経った。
私は授業を受けながらもう死んじゃおうかと考える。どうせ死ぬならお気に入りで森崎君との思い出の場所でもある屋上にしよう。そう思った私は放課後屋上へと向かう。
屋上から景色を眺めながらここから飛び降りるともう森崎君には会えないと思い涙がこみ上げる。泣く前に飛び降りてしまおうと柵に手をかけたとき後ろから声が聞こえる。
「死にたいのか?」
その聞きなれた声にふりかえると森崎君が立っていた。森崎君を見ると今までせき止めていた涙がぽろぽろとあふれだす。
「……死にたい」
森崎君はそう泣きながら答えた私の頭をなでてくれる。
「あの時は美紀が嫌なこと言ったのに何もできなくてごめんな」
「ううん、大丈夫」
「確か初めにここで会った時も死のうとしてたよな」
「うん」
「その時幸せになっても死にたかったら一緒に死んでやるって言ったの覚えてるか?」
「うん」
「その理由、聞いてくれるか?」
「うん」
そう答えると森崎君はぽつぽつと昔話を始めた。
「俺の家は親が厳しくてさ、いつも勉強しろとか言われてテストの点数で出来のいい弟と比べられてきたんだよ。それが嫌でさ、中学くらいから不良みたいなやつとつるみ始めて自分もそうなっていったんだよな。」
「そうだったんだ」
「ああ、それで家では腫れもの扱いされて居場所がなくなったんだ。でもはじめはよかったんだ、でもだんだん馬鹿やる奴らも減っていってさ、そんな孤独を隠したくて周りにかみついて怖がられて、それでもっと孤独になった。それからはもう死んでもいいやって投げやりに生きてたんだよ」
昔のことを語る森崎君はどこか悲しそうで聞いている私も悲しくなる。
「でもさ、高校入って委員長と会ったんだよ。」
「私?」
「ああ、委員長はこんな俺にも周りと同じように接してくれてさ、プリントを出さなかった時にはわざわざ俺を探してプリントを出させてくれた。先生にも見捨てられた俺を見捨てないでくれたのは委員長だけだったんだよ。だからあの時死んでほしくなかったんだ。」
「そんな風に思ってくれてたんだ、うれしい」
「それでさ、今は死んでほしくないだけじゃなくて委員長のことが好きなんだよ」
予想外のその言葉を聞いて私の目から止まったはずの涙が零れ落ちる。
「私も、森崎君が好き。森崎君と屋上であってからずっと楽しかった。それにね、釣り合わないって言われてショックだった。それでこの気持ちに気づいたの。」
「委員長は俺じゃ釣り合わないくらいいい女だよ」
そういって森崎君は私を抱き寄せる。
「もう、一人で死のうとするなよ」
「うん」
この日私たちは恋人同士になった。
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