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第2章 何気ない日々
屋上で森崎君と話した日の放課後、私は一人で掃除をしていた。
クラスメイトの男子が掃除をさぼって部活に行ってしまったからだ。
「今日も私一人か……」
そう呟きながら椅子を机の上にのせる。
するとドアのほうから誰かの足音が聞こえてくる。
「一人で何やってんだ?」
その声のほうを見ると森崎君が歩いてきていた。
「みんな部活に行っちゃったみたいで、一人で掃除」
「ったく、しょうがねえな」
私が掃除を押し付けられていると知った森崎君はそう言いながらも椅子を机の上にのせる。手伝ってくれるみたいだ。
それから沈黙の中で椅子を机に上げる音だけが響く。
何かしゃべらなきゃと思いながら作業を続けてついに机を教室の後ろにまとめるところまで終わってしまう。
これから掃き掃除というときに森崎君が切り出した。
「明日、週末だしどっかいくか?」
「えっ、そうだね、んー、どこがいいんだろ」
急な質問に驚いた私はしどろもどろになってしまう。
そんな私に森崎君は続ける。
「俺は幸せになる手伝いをするんだから委員長の行きたいところでいいぞ」
「じゃあ天国?」
「あのな、死ぬのは後でって約束しただろ。この世の中から選んでくれよ」
行きたいところと言われて真っ先に思い付いたところを言ったが即却下された。
ほうきで床を掃きながら次に行きたいところを考える。
「じゃあ、バッティングセンターとか?」
「いいチョイスだな、飯でも食ってから行くか」
「うん、そうしよう」
次の選択肢はよかったようで森崎君が少し笑顔を見せた。こんな表情もするんだと思いながらちりとりにごみを入れる。
掃除を終えた私たちは帰る支度をする。
「今日は手伝ってくれてありがとね」
「ああ、一人で掃除するよりは早く終わっただろ?」
「うん、それに一人よりも楽しかった」
「それはよかったな」
森崎君にお礼を言いながら靴を履き替え外に出る。外に出るとまぶしい太陽が私たちを照り付ける。梅雨を前にラストスパートをかけるかのように連日晴れが続いて五月だというのに夏のように暑い。
「今日も暑いな」
「そうだねー、このままじゃ干物になりそう」
「ちゃんと水分取らないとな」
森崎君はどうも私の体調に気を使いすぎている気がする。
「そんなに心配になくても当分は死なないよ」
「それはよかった」
そう言った後、森崎君は少し安心したような表情を浮かべる。
「明日の時間はどうする? 飯食うなら11時くらいにするか?」
「うん、11時で大丈夫だよ。楽しみだね!」
「そうだな」
そんな話をしているうちに駅前についてしまった。
「じゃあまた明日ここで!」
「ああ」
明日の約束をした私たちは改札をくぐってそれぞれの電車のホームに向かった。
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