第3章 恋心

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花火の時間が近づいてきたので見やすい場所へと移動している最中に後ろから知らない声が森崎君の名前を呼ぶ。 「おーい、駿人!」 その声に二人で振り返ると浴衣を着た女の子が立っていた。 「美紀か、久しぶりだな」 「久しぶりね」 「委員長、こいつは幼馴染の美紀」 「初めまして、五十嵐美紀よ」 「初めまして、矢野紗知です」 お互いに挨拶をする。第一印象は小さくてかわいらしい子だなと思った。 「美紀は一人で花火を見に来たのか?」 「そんなわけないでしょ、友達と一緒よ」 「そりゃそうか、美紀が一人できたら迷子になるもんな」 「そんなことないわよ!」 そんな会話をしながら森崎君は美紀さんの頭をなでる。 「ところであんた達は二人でこんなところに来るって付き合ってるの?」 「そんなわけねーだろ」 「そ、そうだね」 森崎君が食い気味に否定したのを聞いてなぜか胸が痛む。なぜだろう。 「まあそうよね、こんな地味な女じゃ駿人とは釣り合わないものね」 「そう……ですね」 「な……いっ……よ」 美紀さんのその言葉に頭が真っ白になってしまう。何か言ってる森崎君の声も聞こえない。目が熱くなって周りがぼやける。気づいたら私は走り出していた。 「待てよ!」 呼び止める森崎君も無視して走る。人混みで何度もぶつかりながらなぜ涙が出るのかを考える。私たちは付き合ってるわけでもないし、私なんかじゃ釣り合わないのもわかってる。でもそんなことで泣いちゃうなんて。 これじゃまるで森崎君のこと……。 森崎君のこと好きみたいじゃん。 …………好きなんじゃん。 こんな時でも頭の中に思い浮かぶのは森崎君のことばかり。 きれいな顔立ち スラっと高い身長 私のことを機にかけてくれるやさしさ 意外としっかりしているところ 意外と甘党なところ 礼儀正しいところ ストレートに褒めてくれてくれたこと 可愛い寝顔 そして、たまに見せる無邪気な笑顔 全部、全部大好きなんじゃん。 そのあとも夏休みは続いたが連絡も返せず森崎君と会うこともなかった。一人で過ごして何をしたかも覚えていない。ただ一つはっきり覚えているのは何気ない日々がこんなにも退屈だと思ったのは生まれて初めてだということだけだ。
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