トンネルを抜けると

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トンネルを抜けると

 僕の母方のおじいちゃんは、生前に国鉄、(今でいうJR)に勤めていた車掌さんです。  詳しい業務などは、よくわからないのですが。  鹿児島の田舎の方で、仕事をしていたそうです。  ある時、人がひとりも通らないような山近くに配属されたそうで。  トンネル近くの小さな建物に、一日立っていたそうです。  ひょっとしたら、駅なのかもしれません。  詳しく知らないので、申し訳ないですが……。  とりあえず、じいちゃんとしては、トンネルの出口から出てきた列車の運転手と、電話か無線で連絡を取るのが仕事だったらしいです。  ただ、待つだけの仕事だったようで、真夏で扇風機もなく、周りは田んぼだけ。  暇だし、暑いし。  その施設は、窓があるだけ。  ベルが鳴ると、じいちゃんは電話に出ます。 「もしもし、おつかれさまです」  そう言って、敬礼をします。  相手がクスクス笑いながら、答えます。 「おつかれさま。ふふっ、今日もやってんの?」 「うん、やってるやってる」 「はははっは!」  何が起きて、何が可笑しいのか。  運転手の人からすると、じいちゃんは真面目な国鉄の制服を着た車掌にしか見えません。  問題は、下半身です。  窓から下が壁なのをいいことに……。  じいちゃんは、ズボンを床に下ろしていたそうです。  本人はふんどしとか言ってた気がしますが、多分、何も履いてない状態だと思います。    すれ違う瞬間、お互いに敬礼こそしているものの、笑いを堪えるのに、必死だったそうで。 「はははっは、今、どうなってんの?」 「うん、脱いでる」 「本当に?」 「脱いでるよ。見えてるでしょ?」 「見えるけど、制服しか見えない」 「でしょ、完璧。涼しいよ」 「ははは! 今度、僕もするわ」 「うん、おつかれさま」  このお仕事は、当時の車掌さんの間でかなり人気だったらしく、みんなでやりあって、真夏の業務を楽しめたそうです。  じいちゃんが流行らせた行為のせいで、国鉄は後に民営化したのかもしれませんね……。    了
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