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その男性が紳士帽を外すと、ワックスで固めているのか、大正時代って感じの七三分けの若干オールバック気味な髪型があらわになった。
「はじめまして、私はこう言うものです♪」
なんで語尾が嬉しそうなんだろうね。
そう言って渡してくれた名刺には、
『雑貨屋兼お土産屋、雪見月
店主
安礼 具楽
住所:中京区寺町通六角下る……』
とあった。
住所は、超町中だ。
てか、なに?
一体なんなの?
「ナル、どゆこと?」
そう尋ねると、
「あんたさ、就職先探していたでしょ?
いろいろあって知り合ってさ、京都の老舗で看板娘を探してるって言うからさ」
そう言って、ヘラヘラ笑うナルのバッグから、上端フラップを手で雑に切ってある茶封筒があって、その部分からは紙幣の束の縁がチラッと見える。
それを見たときの私の気持ちは、
『なんなのよそれ?
ナル!
あんた私を売りやがったな!
最低だよ!』
と言うものだった。
確かに就職が決まらないことについては、ナルに少しだけ伝えていたことを、この時になって思い出していた。
しかし、これは一体……。
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