第一話:はじまり

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 今日の私は、水色のノースリーブのワンピースを着て、ナイキのシューズを履いている。 本当は、編み込みのヒールのあるサンダルが良かったんだけど、この前電車のなかで足を踏まれてめちゃくちゃ痛かったんだよね。  やがて電車は、町の中心部へと入り込むために地下へと潜ると、いつの頃からあるのかわからないレンガ造りのアーチが通りすぎていくのが見える。その向こうは反対路線だ。 「ご乗車ありがとうございます。 次はカラスマです。 お忘れものありませんようご注意ください」  そのナレーションを聴いてから、ふと窓の外を見た。 今日は、神戸に住む友達に会う予定だ。 この暑さのなか、町中を歩くのはちょっとしんどい。  神社仏閣の多さは愛知県に続いて二位のこの土地は、世界的に有名な観光都市でもある。 今となっては地方都市になったとは言え、歴史を振り返ってみれば、長く首都であり続けた場所だ。どこを見ても深い歴史が隠れていて、気になったことを調べれば調べるほど、出口が見えない迷宮に入り込むことがある。 そんなこともあって、ここに根付く人々の心には、この土地に住む誇りがある。時にそれはいけず(いじわる)として見られることもあるのだけど。  こんな土地に生まれて住んでいるから、もちろんあなたもあちこちに点在する国宝や世界遺産、重要文化財について詳しいんでしょ? と聞かれることがあるけど、全くそんなことはない。 それらはかけがえのないものではあるけど、私たちにとっては、そこにあって当たり前のものなんだよね。 だから、特別に調べてみようと言う気にはならないんだよね。 ……とはいえ、いつか検定を受けてみたいとは思っているけどね。
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