第四話:しがない音楽家

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 倉庫の引戸を開けて、照明のスイッチをオンにして、私はあのリップを探した。  たしかこの辺に……。 棚の辺りだっけ? 中央は食べ物系だし。  ……あれ? リップが見当たらない。 おっかしいなぁ。 確かここら辺に…… あれがないと、私ヒールになれないじゃん。  まぁ、何かあったら連絡してもいいんだよね。 こんなときこそだよね。  日本とイタリアの時差は8時間で、イタリアが8時間遅れている。 と言うことは、向こうは午後0時だ。 まぁ、連絡して大丈夫でしょう。多分。  そうして、スマホ経由で連絡すると、どこかのカフェでエスプレッソを頼んだと言うアレイグラさんは、上機嫌な様子だった。  そうして事情を説明したのだけど…… 『あ、コウヅキちゃん? 困り事なんだね? ふんふん、まぁなんとかなるよ! あ、それから、リップは回収しといたよ。 これからは自分の力でどうにかしてみて? 大丈夫大丈夫! そういう点では、コウヅキちゃんはもう。 それじゃあね~」  とか言って、一方的に電話は切れた。 相変わらずだよ……。 全く! 自分の力でどうにかって言ってもさぁ…… どうすりゃいいのよ……。 目覚めてるって、意味わかんないっつーのよ!
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