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私も同じ楽器をしていたからわかるけど、コウトのそれはとても雑だった。
それなのに日々の練習はしないから、レッスン中に先生から怒られることもよくあった。
まだ、しゅんとするならいいのだけど、よく癇癪を起こして先生を困らせていたようだ。
そうして、翌日ホマレに頼るのだ。
「うまく吹けない」
そう言われると、ホマレはコウトに懇切丁寧に教えていた。
コウトはそれをとても喜んでいた。
そうしてコウトの音楽的な問題点はその都度改善されたのだけど、元々の音楽的センスに関しては、ホマレに敵うものではなかった。
その点においては、生来持って生まれたものの差だった。ただホマレは、自分の感性を大切にして、それを常に温めて、さらにより良いものを育むことを怠らない努力家でもあった。だから、やっと追いついたと思っても、ホマレはその先をすでに歩いていた。
だから、優しくて透明感のある音色を、その高い技術で表現できるんだ。
ホマレは、その容姿もその音色も、とても美しい。
決して男性的ではない、女性らしさをはらんだ中性的な美しさ、音楽に愛されたあの音色は、基本的に今もあの頃も変わらない。
私もそんなホマレのことが、さらに大切な存在になっていた。
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