第四話:しがない音楽家

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 私も同じ楽器をしていたからわかるけど、コウトのそれはとても雑だった。 それなのに日々の練習はしないから、レッスン中に先生から怒られることもよくあった。 まだ、しゅんとするならいいのだけど、よく癇癪(かんしゃく)を起こして先生を困らせていたようだ。 そうして、翌日ホマレに頼るのだ。 「うまく吹けない」 そう言われると、ホマレはコウトに懇切丁寧に教えていた。 コウトはそれをとても喜んでいた。  そうしてコウトの音楽的な問題点はその都度改善されたのだけど、元々の音楽的センスに関しては、ホマレに敵うものではなかった。  その点においては、生来持って生まれたものの差だった。ただホマレは、自分の感性を大切にして、それを常に温めて、さらにより良いものを育むことを怠らない努力家でもあった。だから、やっと追いついたと思っても、ホマレはその先をすでに歩いていた。  だから、優しくて透明感のある音色を、その高い技術で表現できるんだ。 ホマレは、その容姿もその音色も、とても美しい。 決して男性的ではない、女性らしさをはらんだ中性的な美しさ、音楽に愛されたあの音色は、基本的に今もあの頃も変わらない。  私もそんなホマレのことが、さらに大切な存在になっていた。
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