第四話:しがない音楽家

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 まるで、お小遣いを貯めて、楽しみにして買ったゲームだったのに、自分には難易度が高くてクリアできずにイライラして、かと言ってマニュアルを調べるでもなく。また、誰かにヒントを聞くでもなく、そういう事を自ら放棄したうえで、その時の感情の爆発でゲーム機の本体ごと投げ捨ててしまったようなものだった。  取り返しのつかないことをしてしまってから、自分の行いに対して、自分のために泣いているような、そんな一方的なものだ。  そもそも、コウトにホマレを大切に想い、ホマレの頑張りや優しさに対して尊重する気持ちがあれば、こんな事にはなっていなかったのだ。  子どもだからと、そんな理由で丸く収めるには、あまりにも度が過ぎていた。  コウトはその後、学校に居辛くなって、転校していった。だけど、ホマレの心はなかなか元には戻らなかった。  だから、私は自らの楽器を置いて、ケースに仕舞い込んだ。 そうして、なるべくホマレの側で、ホマレの音楽を支えるようにしたんだ。 どんな時でも、ホマレの音色を聴き逃さないように、ホマレの音色が濁らないようにと、心から願って、祈りながら……。
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