第四話:しがない音楽家

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 ……その時から、ホマレは自らの言葉遣いに気を遣うようになった。 言葉が汚いと心が汚れる。心が汚れると音が汚れる。 それは、そういうことを気にしていたからこその事だ。 どんなことが起きても、自分の心を維持するためには、とても有効だとも思ったし、同時にホマレの中にある、音楽への強い覚悟だとも思った。  フルートと言うのは、そのキラキラした見ためと高音域の柔らかい音色から、それを構えるだけで女子力がアップすると言われている、管楽器の中でもとても人気の高いものだ。 そこにきて、ホマレの一人称はあの時から『私』だ。  ホマレの事を知れば、それが音楽を大切にしているからこそのストイックさだとわかる。だけれど、残念ながら、世の中には表面だけをみてわかったつもりになる人がとても多い。 ホマレは容姿とフルート奏者という点と、世間一般の男子風ではない言葉遣いの事から、女性っぽく見られることが多い。 でも、恋愛対象は女性だ。  確かに、女の私から見てもキレイって思うことがあるくらいだ。 だから、ホマレに好意を持ったコウトの気持ちはわからなくはない。 そりゃ、キレイな男が好きな男性にはモテるだろうね。  ただ、コウトのあれは行きすぎていたし、一方的に自らの破滅を呼んだ行為だった。だけど、それだけではなく、ホマレを大きく傷つけた。そんなホマレを見ている私にとっても辛いことだった。  コウトの一件は、あまりにもショックが強かった。  
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