第四話:しがない音楽家

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 とはいえ、そんな私はいつものように基本的には、雑貨屋兼お土産屋『雪見月』で店番をしているのだけどね。  アレイグラさんは、神戸に行ったきりでほとんど連絡はない。  そんなことよりも、二階から聴こえてくるホマレの音色が、心地いいんだよほんと。 ホマレが心にあったものをちゃんと乗り超えた、そんな暖かくて芯のある音色になってる。 大好きで大好きで、本当に大切だと感じる。 それに、とても優しくて、聴いていると心がほっこりしてふんわりする。 そんな、かけがえのない、大切な音色だ。  今日は、開店してから売れたものは、 ブリキの金魚、 カラーインク、 ガラスペン、 マリンがチョイスしたバレッタ、 ルルの絵本は、お馴染みのみたがりバジリスクと、森のとびらさんだ。 それから、いつものお菓子類は生八つ橋と、京風味詰め合わせと銘打ったビシュコが結構人気で良く売れていた。  ふと、お客さんが途切れてうとうとしていると、いつの間にかそばに来ていたホマレに肩をふんわりと優しくぽんぽんされて、 「店番中なのに、店員さんが寝てるの?」  そう言って、私を見ているホマレが嬉しい。 「あぁ、ホマレ。あんたの音色が心地よくてね」 そう言いながら、よだれが垂れていなかったかと気になって、手の甲で唇を拭った。 「音、うるさくないの?」 なんて事を言った。 「もう、なにいってんのよ。 ホマレの音色は最高の子守歌だよ。 あんたの笛の音が一番落ち着く。 いいよほんと」 「でもそれじゃぁ、店番にならないじゃん!」 「いいのよ!それはそれで!」  私たちは、そう言って笑いあっていた。  うん。 とっても幸せだ。
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