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クレネたちが、出発しなければならなかった、あの時。
世界じゅうの多くの人々が、生命をつなぐわずかな希望に縋って、あまりにも、あまりにも危急的に、星や宇宙船を求めた。
そこにつけ込み、悪質な手配業者が跋扈していることは、そういえば当時から噂されていた。
だが、真贋を確かめる時間の余裕などなかった。
特にクレネの船に乗っているような、高位の階級もコネもない人間たちには、それらが手に入るだけでも運がいい、というような状況だった。
業者たちからすれば、不良品を掴まされたと買い手が気づくころには、何万光年も先、引き返して訴え出ることすら叶わない、遠く離れた場所にいる。責任もなにも追及される心配はなかったのだ。商売人としての矜持も、倫理もなにもなかっただろう。
あとはもう、自分たちが利用した業者が、良心的だったことに賭けてみるしかなかった。
宇宙船は、まあ、その賭けに勝ったと言ってもいいだろう。
とにかく、ここまで来ることはできたのだから。
だが、小惑星に関しては違ったらしい。
クレネは泣きたくなった。
ここでみづちを討つことができたところで、無事に移住ができるかはかなり怪しかった。
船に、テラフォーミングのための装置と機材は、ある程度は積んである。
人間が住めるように改造できるまで、船でコールド・スリープを利用したまま何年かは待機することもできる。
だが、それはあくまで数年単位の話だ。
それまでに小惑星に降りたてなければ、限界はすぐにやってくる。
いっそ、このまま地表に激突して、みづちと共に死んだほうが楽か。
そう覚悟した瞬間だった。
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