18人が本棚に入れています
本棚に追加
まずは、その、手始めだ。
クレネは、指を開いた。
熱を持ち、ずっと震えていたその小さな円錐形の角は、光を放ち始める。
そして角を支点にして、ゼリー状に変化していたものが集まり始め、最後には童子の姿になった。
その額には、神々しく輝く角。
それを視認したと思った次の瞬間、クレネは地表へと着いていた。
だが、硬い地面に激突するはずの身体が、なにかに沈み込む感覚に包まれた。
さっきまでの、みづちの一部だったゼリー状のものとは違う。
そしてすぐに、上昇した。
じゃぶっ。
すぐに、音が聞こえた。
気がつくとクレネは、地表いっぱいに満ちた水……、いや、海の上に浮かんでいた。
音は、自分の身体に水が当たってたてているものだ。
『オマエハ、マタ、ウマレカワレ』
その声と共に、まるでトビウオが跳ねるように、六連星が水面に飛び出してきた。
『ミコ、トシテ、ウマレカワル、チカラ、カタナノチカラ。モチツヅケルガ、ヨイ』
『ダガ、コレカラウマレルトキハ』
みづちの声は、厳しかった。
『ワレデハナク、ヤクソク、タガエルニンゲンヲ、ホロボセ』
「……私に、同族殺しをしろと?」
硬い声になってしまうのは、しかたないだろう。
『ソノヤクソク、ナイナラ、コノミズ、ナクス』
「そんな……!」
『ヤクソク、タガエナケレバ、イイダロウ』
すこし呆れたような言い方だった。
たしかに、言う通りなのだ。
ただ、理屈通りに人々が生きるかというと、それはそれで難しい。
だが、自分が監視者としての役割を請け負えさえすれば、事態が深刻化する前に警告を発したり、代替案を提案したり、やれることはあるだろう。
結局、自分は、賭け続けるしかないのだ。
これまでも、そうだったように。
最初のコメントを投稿しよう!