- 1 - 影

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------ぽかり、と目が覚める。  いつもの習慣で、まず正面に見える壁の時計に目をやり、 「わぁぁぁぁぁ~ッ!」  叫びながら、志水(しみず)(れい)はベッドから跳ね起きた。  遅刻寸前だった。  見ると、手にはスマホを握っている。  どうやら目覚ましのアラームを切って、二度寝してしまったようだ。  抜かった。  慌てて枕元の窓枠にかけたハンガーからツナギの作業着を取る。下着だけでそれを直接身につけ、さらに隣のハンガーのライディングジャケットを羽織った。  ヘッドボードの上の髪ゴムと財布を取り、無造作にポケットに突っ込む。  玄関わきの台所兼洗面所で、顔だけ手早く洗った。そのままヘルメットと、最後にスマホを引っ掴み、家を飛び出した。  この間、約五分。  独身者用の狭いアパートで、ほとんどの物が手の届く範囲にあるのと、元々化粧っ気がないのがこういう場合には幸いした。  正面の駐輪場に停めてあったバイクに跨り、職場に向かう。  初夏の風が、心地よい。  焦りに焦っている心が、それで少し宥められた気がして、肩に入っていた無駄な力が自然に抜けた。  しばらくそれを心地よく味わっていたのだが、急に不快な匂いを嗅いだ気がして、澪はヘルメットの内側で眉を顰めた。  通りすがりのどこかに植わっていた、花の匂いだったような気もする。  しかし今それを追求している時間はない。ざりっと砂を噛んでしまったような感覚は無視して、ひたすら走る方に集中する。  その甲斐あって、勤め先には、時間ギリギリに滑り込めた。
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