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タイムカードを押し、そこでようやくひと息つく。
澪の勤め先は、水道の配管・施工・修理全般を請け負う業務をしている。
小さな会社で、従業員も事務員を入れて八人しかいない。社名は小桐水工社と言う。
奥のデスクで発注書の確認をしている社長の小桐仁郎に朝の挨拶をすると、はいはい、と返ってきた。
ノリとしては、社長というより気のいい近所のおっちゃんだ。
左側の壁側に設置してあるウォーターサーバーの水を汲んでいると、コップに口を付けるより前に、同期入社の伊東大輔が軽口を叩いてきた。
「よう、朝からお疲れ」
ニヤニヤと笑っていた。
別に悪意があるわけではない。あくまで気さくさの現れなのはわかっているので、澪も本気で腹を立てたりはしない。
「うるさいよ」
ただし、一応言い返してはおく。
男ばかりの現場でナメられるのが当たり前になると、色々と仕事がしにくくなるからだ。
伊東は叱られた子供のように、肩を竦め黙った。
それでようやく、澪は一気に水を飲んだ。ひりつくようだった咽喉が、かなりマシになった。
……そうだった。
慌てふためいていたせいで気がそれてしまっていたが、自分は確か昨夜、嫌な夢にうなされて何度も目が覚めたのだ。寝坊もたぶんそのせいだろう。
しかし、内容は覚えていない。
ただひどい吐き気がしていたことだけは覚えている。その結果、咽喉がいがらっぽくなっていたのだ。
ようやく潤いを補えた。不思議なもので、肉体的にそうなるだけでも、感情の棘が薄れる気がした。
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