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「おい、サコ。医者を呼んでくれ。救急車を呼んでくれ」
ベッドの上の男が、苦しそうにそういった。
斎藤シズルは僕の兄だった。いや、今も兄なんだけど。実は兄じゃなかったというか。
少し心配になって顔を覗くと、笑っていたので頭を軽く小突く。
「いたわれよ。こっちは病人だぜ」
「そうだね。もしかしたら本当に小突いただけで死んじゃうかも。僕は兄さんのことがよくわからないよ」
「……まだ、兄さんって呼んでくれんだな」
「うん、今更だしね」
このやり取りをするのは何回目だろうか。兄が寝込んで、体を壊して、彼の正体を僕が知ったその日から、彼は何度も確認してくる。
「大人でしょ、救急車くらい自分で呼びな」
試すように、僕はスマホを兄の顔の横に置いた。これで、本当に救急車を呼んだなら、僕らはもう一生会えないかもしれない。
期待していたのは「ジョーダンだってば」って笑い交じりに言われることだった。でも、兄は全く予想外の言葉を口にした。
「これじゃない。『俺の通信機』をくれ」
「……『通信機』って。まさか」
「うん、俺の星の通信機。助けを呼ぶなら、それが必要だ」
僕は固まってしまった。それもまた、かすかな希望でありながら、一生兄と会えなくなるかもしれないという、絶望でもあった。
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