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「ほら。怖いだろ」
それに気がついた一真が弦のスマホを取り上げ、運転席の端、弦の手の届かないところに隠してしまった。
「弦。出ちゃダメだ。気づかなかったことにして。この時間をヒカルに邪魔されたくない」
「邪魔って……」
「ヒカルはいつでも弦と一緒にいられるじゃん。なのにしつこいんだよ」
あれ。一真はこんな奴だったかな。昔はこんなにヒカルを毛嫌いしていなかった。
「弦。俺と話そう。そうだ、弦はパスタ好き? 渋谷にパスタが美味しい店があるんだ。ヒカルの誕生日プレゼント買ったあと俺と行かない?」
「うん……いいけど……」
「よし、決まり! 予約する。卒業でサークルの先輩を送り出すときに使ったお店で、料理のレベルが高いし、お店の人も感じがよかったんだ。そのときは店貸切でガヤガヤしてたから、今度は弦を連れてゆっくり行きたいなって思ったの」
一真はいつもどおりの爽やかな笑顔を向けてきた。
一真に取り上げられたスマホは、数分間に及びしつこく振動してブーッと鳴り続けていたが、それもやがて止んだ。
——ヒカル。心配してるのかな。
ヒカルのことが気がかりだ。ヒカルをよく知る前は、氷のように心が冷たい奴だと思っていたけど、本当のヒカルは違う。それなのに虚勢を張って、誰にも弱みを見せず、あの広い部屋でひとり閉じこもって孤独を感じているのだとしたら。
ヒカルは不幸だ——。
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