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今日はヒカルとのデートの日だ。きっと、ヒカルとの最後のデートになる。
一真とヒカルは絶対に仲違いしてはいけない。
ずっと仲のよかった二人があんなになってしまったのはきっと弦のせいだ。
二人の人生にとって弦は邪魔者でしかない。
ヒカルに借りた本が大量にある。今日でそれを全部返したいと思って、ずっと持ち歩くには重いので『ヒカルんちで遊ぼう』と提案してヒカルは了承してくれた。
だが、弦はヒカルの家まで行くと言ったのに、そこは、ヒカルは駅まで迎えに行くと言って譲らなかった。
昼下がりの午後。ヒカルは待ち合わせしていた駅の改札前で待っていた。今日こそヒカルを待たせないようにと15分も早く駅に着いたのに、既にヒカルはそこにいた。
相変わらずヒカルはかっこいい。あんな長身美形の男がいたら誰もが振り返るだろう。案の定、ヒカルはチラチラ見られて周りから注目を集めていた。何もせずに突っ立っているだけでかっこいいのだから本当にすごい。
そんな畏れ多いヒカルのもとへ弦は向かっていく。
「ヒカル!」
「弦、早いな」
「ヒカルのほうが俺より早いじゃん」
「そっか」
ヒカルは笑った。いつもは嬉しくなるヒカルの笑顔が、今日はチクッと弦の胸に突き刺さる。
だってこの笑顔を見られるのはこれが最後かもしれない。
「本。持つよ」
ヒカルは弦が持ってきた本が入った袋を弦から奪い取った。
「こんな急に全部返してくれなくてもいいのに」
「もう読み終わったから」
実は全部は読み終えてない。でも今日返さないと、今度ヒカルに会える日はいつかわからないと思って全部持ってきた。
「重いだろ、俺が持つよ」
弦が取り返そうとすると「俺を誰だと思ってる? お前の彼氏だぞ」とヒカルに怒られた。
「行こう、弦」
ヒカルから差し伸べられた手。いつもはそれを握ったりはしないが、今日だけはヒカルに触れたくて仕方がなくて、その手をぎゅっと握った。
驚いた様子のヒカルは一瞬目を見開いたが、すぐに笑顔になり弦の手指にヒカルの指を絡めてきた。
ヒカルの家でゲームをしたり、オヤツを食べたりしていつもどおりに過ごした。
ヒカルの家のオヤツはすごい。専属パティシエが要望を言えばなんでも作ってくれるらしい。ヒカルはショートケーキをお願いしたそうだ。
「やっと誕生日ケーキにありつけた」
ヒカルはそんな冗談を言った。
ヒカルの誕生日だったあの日、一真の事故の電話でケーキも食べずにこの店を飛び出してしまったから、そのことを言っているのだろう。
「ヒカルは甘いもの好きなのか?」
「いや、そうでもない」
「じゃあなんでそんなにケーキを食べたがったんだよ」
誕生日のときも、今日だってそうだ。なんでヒカルはケーキにこだわるんだろう。
「弦。誕生日にどうして俺があのカフェに弦を誘ったと思う?」
「えっ? ケーキが食べたいってヒカルが自分で言ってたじゃん」
「違う。あの店の立地」
「立地?」
「建ってる場所。すぐ裏がラブホ。あの店は恋人といい雰囲気になれれば、流れでホテルに誘いやすい。そういう使い方もできるって聞いたんだ」
「はっ……?」
ラブホ?! ヒカルの口からそんな単語が飛び出すなんて。
「これでわかったか? 俺は狡い奴だ。誕生日を理由に、弦をホテルに連れ込もうとしたんだから」
「…………っ!」
嘘だろ。ヒカルがそんなことを考えていただなんて。
「引いた? 悪いな。俺にも性欲があって、弦のことを思うとムラムラする。それだけの話」
ヒカルはそこで話を終わらせようとする。
「俺はそれでも構わないよ、ヒカル」
「いや、今のは誘ったんじゃない。逆だ。俺のことを信用するなって意味で——」
「いいよ、俺は、ヒカルとなら……」
弦にとっても願ってもない話だ。別れる前にヒカルと一度でいいからそういうことをしてみたかった。
「弦、急にどうしたんだ?!」
「急じゃない。ヒカルは? 嫌だ?」
「いやじゃ……」
ヒカルと目が合った。ヒカルが珍しく顔を赤らめて、動揺している。
「弦……」
ヒカルの手が弦の身体に伸びてきて、弦の腰に触れる。そのままヒカルのほうに身体を引き寄せられた。
お互いの視線を絡ませ、どちらともなく唇を重ねる。
「んっ…ふぅ……」
ヒカルはキスが上手だ。蕩けるようなキスにあっという間に魅了されていく。
「…………っ!」
ぐわっと両足をすくわれ、ヒカルに横抱きにされる。姫扱いされているみたいで恥ずかしいが、落とされてはかなわないとヒカルの首にしがみついた。
そのままヒカルに連れていかれた先はベッドだ。丁寧にベッドの上に下ろされ、ヒカルが上から覆い被さってきた。
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