叶えらし願い

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ー 18世紀 ヨーロッパ ー 壁面に置かれた蝋燭(ろうそく)だけが足元を照らす 薄暗い地下階段を降りると辿り着くその場所は 冥界(めいかい)への入口だと言える。 「この牢獄は比較的温厚な囚人ばかりだ。 心配することはない」 自分と年齢が1つ2つしか違わないであろう 赤髪の若い看守(かんしゅ)が牢獄の扉を開けると アランの足元に茶色い(ねずみ)の親子が這い出てきた。 親鼠に続き子鼠が4匹。 その内の1匹は横たわったまま動かなくなった。 死んだのであろう。 親鼠は寂しげにその死骸をしばらく舐めていたが 他の子鼠を連れて去って行った。 「親より先に子が死ぬ事は1番の親不孝だ だから何があってもお前は父さんより長く 生きるんだぞ」 幼い頃に生き別れた父親から アランが最後に聞いた言葉だ。 どうやらそれは自然界の他動物においても 同じ教訓があるらしい。 (父がまだ生きていれば今日から死刑囚となった俺はその1番の親不孝者になるのだろうな) 冷たくなった子鼠の死骸を撫でながら彼はそう思った。
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