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朝と夜、看守が運んでくる食事を食べる以外は
1日中牢獄の中でボゥっとして過ごした。
扉が開き看守から自分の名前を呼ばれ処刑台へと
向かう人生の終幕をただひたすら待つ日々。
貧しい農奴の出自であり地位や名誉など
失うものが何一つ無い筈のアランでも
自分の命が奪われ存在そのものが消えて無くなる事は
怖くて仕方なかった。
「なぁ坊主。お前さん何処から来たんだよ」
「………」
「怖いんだろ?死ぬのが。俺もだよ」
「………」
「黙ってたって怖いのは変わらん。
話せば少しは気が楽になる。
坊主名前は何てんだ?俺はクリフってんだ」
他に何人かの死刑囚がアランと同じ牢獄に
収監されており、誰も言葉を交わそうとしなかったが
そのクリフという恰幅の良い中年男は
毎日の様にアランへ話しかけて来た。
だがこれから死を待つだけの時間しか残されていない
アランに他人と言葉を交わす精神的余裕など
持ち合わせていなかった。
アランが投獄されてから一月程経ったある夜
珍しく夕飯後に囚人達へグラス一杯の葡萄酒が
振る舞われた。
途端、囚人達の表情が凍りつくのを
アランは肌で感じとった。
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