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4『交わる愛と想い』
****side■唯野(課長)
板井がこんなに強引でヤキモチ妬きだと思わなかった。
それは嬉しい誤算。
黒岩の強引さに辟易していたはずなのに、板井に独占欲を向けられ、ときめいてしまっている自分がいた。羞恥に顔を赤くしていると、困ったようにこちらを見ている彼と目が合う。
──こんな時なのに、名前呼んで欲しいなんてどうかしているんだろうか?
さきほど呼び捨てられた時のことを思い出し、なんとも言えない気分になる。
それはきっと欲情。
”抱いてもいいですよね?”
そう問われたことを思い出し、ドキリとした。
彼の力強い腕。
今まで同性に対し、組み敷かれる自分を想像をしたことはなかった。
塩田に好意を寄せたことはあったが、こんなに強い想いを抱いていたわけではない。だから、恋とはこういうものなんだと思った。
理由がないのに会いたい。
声を聴きたい、触れたい。
傍に居たい。
塩田を好きだった自分は、そこまでではなかった。
板井に会いたくてたまらなくなるのは、恋しているからだ。
「黒岩とは何でもない。あれは、黒岩に向けた言葉じゃない。お前が変なところだけ聞いていただけだ」
チラッと板井の方を伺うと、彼は自分の誤解を恥ずかしいと思ったのか口元を手で押さえていた。
「すみません。俺、冷静じゃなくて」
「いいよ」
と唯野が笑いかけると、そのまま顎を掴まれ口づけられる。
唯野はそのまま彼の首に両腕を絡めた。
「なあ、板井」
上目遣いで彼を見つめると、板井は唯野の背中に腕を回す。
「なんです?」
「俺、そんなモテないしさ。心配すること……」
ないと言おうとしたら、
「何言ってるんです? 課長。自覚なさすぎです!」
と力強く否定されてしまった。
「自覚ってなんだよ。好きだなんて言われたこと、この十七年間一度も……」
もちろんそれは、板井を含まないことくらいは伝わっているはずだが、
「あのですね。それは課長が既婚者だったからでしょう? うちの会社に不倫に走る輩なんて……」
黒岩のことを思い出したのか、いないとは断言できなかった板井。
「とにかく、監視カメラがそこかしこにあるうちの会社で、そんなイカレタことをするのは黒岩総括くらいですから!」
と言い直す彼に、思わずクスッと笑ってしまう唯野。
ぐいっと彼の首に回した腕に力を入れベッドに沈み込んだ唯野は、彼に組み伏せられた体勢で、
「名前、呼んでくれないのか?」
と拗ねたように問う。
「え」
その言葉に一瞬、固まる板井。
そして、
「さっきは呼び捨てしてしまって……」
と謝ろうとする。
「いい。呼べよ、名前」
彼に命令口調でそういいながら、唯野は身体に熱を帯びていくのを感じていた。胸が熱くなって心拍数が上がっていく。自分は明らかに欲情していた。
「修二」
「ん……」
耳元で名前を呼ばれ、声を漏らした唯野の中心部に板井の手が伸びる。
「板井……いきなりそんなとこ触るな、バカ」
唯野が真っ赤になって抗議すると、
「でも、硬くなり始めてる」
と彼。
「解説するなよ」
さすがに口頭で状況を説明されるのは恥ずかしい。
だが彼は、
「名前、呼ばれただけで感じちゃったんですか?」
と耳元で囁くように煽る。
──コイツ。わざとだ。
「そうだよ。だから……」
その先は言葉にならなかった。
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