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****side■唯野(課長)
──好きで好きで気が変になりそうだ。
どうしてこんな……。
熱を吐き出すと共に、想いが溢れ出す。
「何が悲しいんですか?」
唯野の頬を涙が伝う。
それを指先で掬い取って、じっとこちらを見つめる板井。
「悲しくなんてない」
触れられたところから身体が熱を帯び、どうしようもなく彼を求めている。
「お前と、早く……繋がりたい」
瞬きを一つして、じっと板井を見つめ返すと驚いた顔をされた。
「なあ、板井」
「はい」
「俺はお前が思っているよりもずっと、お前のことが好きだよ」
どうやって伝えたら、この想いを分かってもらえるのだろうか? そう思ったら涙が溢れた。
──きっと俺は、この想いは伝えてはいけないものだと心のどこかで思っていたに違いない。
だから板井と想いが通じ合ったことを、まだ夢のように感じていた。
「俺が黒岩を好きになることはないし、お前が商品部の子と抱き合っているのを見て動揺するくらい好きなんだ」
何故か自分は板井が他の人に心を奪われることはないと信じていた。
どうしてそんな風に感じていたかは分からないが。
「一日居なかったくらいで、他の人に奪われてしまうくらいなら休むんじゃなかったって後悔した」
「修二、あれは違う」
「違う?」
そう言えば、あの時も誤解だと言っていたなと唯野はぼんやり思う。
「あの時ちょうど、彼女の家から可愛がっていたネコが亡くなったという連絡があって」
「猫」
「たまたま近くにいたので、慰めていただけです」
困った顔をして事情を説明する板井。
板井はすらりと背が高く、無口だが常識人で優しいので女子社員に人気がある。本人は知らないようだが。
表立って想いを告げる者がいないのは、彼が”苦情係の課長の忠犬”などと呼ばれているからだ。だからこそ、自分がいない間に彼に気がある女子社員が告白でもしたのじゃないかと思ったのだ。
「そっか……」
そっと息を吐くように呟く唯野に、板井がふっと笑みを浮かべる。その優しい笑みにまた心臓が跳ねた。
「ヤキモチ、妬いてくれたんですね」
「そりゃ……まあ」
「泣いちゃうくらい、好きなんですか? 俺のこと」
あまり笑わない彼だからこそ、その表情から目が離せない。
「うん……好きだよ」
彼は両手で唯野の頬を包み込むと、そっと口づけをくれる。唯野はその口づけに酔った。
──もっと欲しい。
愛されたい。
「ベッドに行きましょうか」
唯野の変化を感じ取った彼が、少し顔を赤らめながらそう提案する。
唯野には断る理由などなかった。
**
「あ……ッ……待って」
唯野は股を大きく開かれ、真っ赤になって板井に手を伸ばした。
「ここ、使うことくらい知っているんでしょう?」
「んッ……板井……ッ」
しかし彼は唯野の制止も聞かず、最奥の蕾に舌を這わせ始めたのだ。
何も知らなかったわけじゃない。だが、好きな人との初めての経験に覚悟が足りなかった。
「ああッ……」
──そんなところが気持ちいいなんて……。
あの時は気持ち悪いだけだったのに。
唯野は十七年前の記憶を辿る。
あれが全ての始まりだったのだろうか。
「いた……んんッ……」
板井は親指で入り口をくいっと広げると、中に舌を這わせながら唯野自身に指を絡めた。よがって胸を逸らす唯野を満足気に眺めながら。
「あッ」
おかしくなりそうなくらい快感の波が押し寄せる。
このままどこまでも堕ちていきたいと思った。
全て包んで、過去も全て。
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