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****side■板井
唯野の最奥の蕾に指を滑らす頃には、彼は板井との行為にすっかり夢中になっていた。
「板井」
「はい?」
彼の蕾に指を差し込もうとしていた板井は、呼ばれて唯野を見つめ返す。この先の行為を怖がっているのだろうと思いながら。
しかし、
「わがまま言ってもいいか?」
と、問われ軽くキスをした。
唯野は離れていく唇を見つめながら、
「もっと一緒にいたい」
と消え入りそうな声で言う。
「職場だって一緒だし、一緒にいる時間はそれなりに長いとは思う。でも、今まで生きてきた時間よりも、残りの人生は短い。だから少しでも一緒にいたいんだ」
唯野の想いを聞いて、板井はその身体をぎゅっと抱きしめた。
人は多くを求める生き物だ。
好きな人と一緒の時間が共有できることは奇跡に近いのに、同じ時を過ごすうちにその尊さを忘れてしまう。
ただ傍に居られることが、こんなにも幸せなのに。
「だめ……かな?」
唯野の優しい声が好きだ。
穏やかな性格が好きだ。
部下たちを優しく見つめるその目が好きだ。
「だめ……なわけないじゃないですか」
どんなに想っても届かないと思っていたから、唯野に気に入られている塩田に嫉妬した。唯野に気安く触れる黒岩に憎しみを覚えた。そして唯野と仲の良いと言われる、副社長の皇を羨ましいと思っていた。
「でも、本当に俺でいいんですか?」
自信の持てない板井に困った顔をする唯野。
「まだ、黒岩とのこと疑ってるのか?」
「そういうわけじゃ……」
言葉を濁す板井に唯野はため息を一つ着くと、
「俺は、お前に会いたくて家を出たんだ。その途中でアイツから電話が来た。それだけだ」
「俺に会うため?」
板井は彼に送ったメッセージの内容を思い出し、ハッとする。
自分がいるところに来ないかと誘ったのは、確かに自分だ。辻褄は合う。
「お前に会いたいという話を、聞かれただけなんだよ」
そういうと、板井の首に自分の腕を巻き付ける唯野。板井はその背中を優しく撫でた。
「会いたかったんだよ、お前に」
「修二」
「なあ? ここで一緒に暮らさないか?」
それは愛しい人からの嬉しい誘い。
異論などあるはずはない。
「傍に居て欲しいんだ」
「喜んで」
**
「ほんとに後悔しませんか?」
指で充分に解したそこに自分自身をあてがいながら、唯野に問う板井。
「なんで、後悔なんかするんだよ」
「初めてなんでしょう?」
そこでの快感を覚えてしまったら、もう後へは引き返せない。
別れるつもりなど毛頭ないが、もし他の人とそんなことをしようとしたら許せる自信はなかった。
もっとも、唯野が浮気をするような人間だとは思っていない。
「お前の指……良かったし。後悔なんてしない」
唯野は頬を赤らめ、恥かしそうに言う。
「板井としたいんだよ。だから、やめるなんて言うなよ」
と、続けて。
板井は瞬きを一つすると、唯野に口づけながら腰を進める。
もう後戻りはできない。
「んんッ……」
唇を離すと、ぎゅっとしがみついてくる彼が愛しい。
年上で、上司で、ずっと好きだった人。
「あッ……板井ッ」
「ダメ。やめない」
ゆっくりと腰を押し進めていく板井に、胸を仰け反らせる唯野。
「好き……好きだよ」
縋りつくような声。
「愛していますよ、修二」
板井は愛しいというように耳元で囁いたのだった。
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