5『変わり始めた日常』

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****side■板井 ──可愛いな……この人、ホント。 「昼間っぱらから変なとこ触りやがって、バカ。どうしてくれるんだよ」  涙目で板井に抱き着いてる唯野が可愛い。 「仮眠室行きましょうか」 「は?」  給湯室の奥には仮眠室がある。ほとんど使われることはないが。 「塩田たちにはメッセ送っておくんで」 「え、ちょっと……待て。板井」  彼の手首を掴み、仮眠室のドアを開ける。簡易ベッドしかない四畳ほどの狭い空間。 「そのまま業務に戻るおつもりですか?」  唯野をベッドに座らせると、板井はスマホのメッセージアプリを開き塩田にメッセージを打つ。   「二人でなんて、怪しまれる」  唯野は往生際が悪いようだ。 「なら、一人でしますか? 気になって集中できないと思いますが」 「それは……」  板井は隣に腰かけると、彼を引き寄せその唇に自分の唇を押し当てた。 「あ……」  もう片方の手で唯野のスラックスの前を寛げると、下着の中に手を差し入れる。 「大丈夫、()かせてあげるだけです」 「こんな……とこで……」  彼の抵抗は逆に板井の欲情を煽っていた。  服が汚れると言って彼から衣類を取り払い、彼自身を握りこむ。観念した唯野は板井の愛撫に夢中になっていた。  こんな時でも板井が考えるのは、総括黒岩のこと。   強引なあの人のことだ、放っておけば暴挙に出るかもしれない。 ──修二を好きになる前は、見境なかったというし……。  心配になるのも無理はないと思うんだけれど。    強引に身体の関係を迫られることを懸念したのに、唯野には伝わらなかった。それどころか板井の手に反応してしまうなんて。 「んッ……」  彼自身を強く弱く扱きあげる。本当はもっといろんなところに刺激を与えてあげたいが、ここは会社だ。これ以上の羞恥には耐えられないだろう。  しかも、こんなことをしていると黒岩にバレたら大惨事。ロクなことにならない。  彼に何度も口づけながら、彼自身に刺激を与え続けた。 「あッ……」  唯野は何を思いながら板井に身を任せるのだろか?  先ほどスマホの受話口から聴こえて来た黒岩の言葉。 『俺は諦めない。必ず板井から奪ってやるから』  奪われてたまるものか。  それに唯野はそんな簡単に心変わりする人じゃない。初めこそ不安にもなったが、彼がどれほど自分のことを好きでいてくれているのか知ったのだ。  知ることは人を強くするのだと思った。 ──知らないから不安になる。  ただそれだけのことだ。    とは言え、黒岩の執念深さは筋金入り。  簡単にあきらめることはしないだろう。  守ってあげないといけないと思った。 ──にしても、きっかけは何だったんだ?  誰かが裏で糸でも引いているのだろうか。  黒岩という男は話してみたらわかる通り、不倫なんてなんのそのと思っている節がある。そして不倫程度では首にはならない会社だということだ。少なくとも、黒岩は。  強気に出られるということは、つまりそういうこと。 ──社長がけしかけたってことか。  それなら納得できる。  なにしてくれてんだ! と思いながら唯野の髪をなでる。 「板井……ッ」 「愛してますよ」 「はあッ……」  まもなく彼が板井の手の中で熱を放つのを見ていた。 「好きだ」 「俺も……」  板井は胸の中でぐったりとする彼をぎゅっと抱きしめる。  社長の目的を知らねばならないと思った。そうしなければ黒岩を止めることなんて出来ないだろう。とは言え、相手は社長だ。どうやってコンタクトを取るべきか。 ──まずは副社長に話をあげてみるか。  あの人は黒岩総括や修二の営業時代の後輩。  今度こそ何か掴めるかもしれない。  皇の唯野を避けるような態度はとても気になるが。  苦情係では一緒に仕事をしているのに、何ゆえ避けるのか。
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