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****side■板井
──可愛いな……この人、ホント。
「昼間っぱらから変なとこ触りやがって、バカ。どうしてくれるんだよ」
涙目で板井に抱き着いてる唯野が可愛い。
「仮眠室行きましょうか」
「は?」
給湯室の奥には仮眠室がある。ほとんど使われることはないが。
「塩田たちにはメッセ送っておくんで」
「え、ちょっと……待て。板井」
彼の手首を掴み、仮眠室のドアを開ける。簡易ベッドしかない四畳ほどの狭い空間。
「そのまま業務に戻るおつもりですか?」
唯野をベッドに座らせると、板井はスマホのメッセージアプリを開き塩田にメッセージを打つ。
「二人でなんて、怪しまれる」
唯野は往生際が悪いようだ。
「なら、一人でしますか? 気になって集中できないと思いますが」
「それは……」
板井は隣に腰かけると、彼を引き寄せその唇に自分の唇を押し当てた。
「あ……」
もう片方の手で唯野のスラックスの前を寛げると、下着の中に手を差し入れる。
「大丈夫、達かせてあげるだけです」
「こんな……とこで……」
彼の抵抗は逆に板井の欲情を煽っていた。
服が汚れると言って彼から衣類を取り払い、彼自身を握りこむ。観念した唯野は板井の愛撫に夢中になっていた。
こんな時でも板井が考えるのは、総括黒岩のこと。
強引なあの人のことだ、放っておけば暴挙に出るかもしれない。
──修二を好きになる前は、見境なかったというし……。
心配になるのも無理はないと思うんだけれど。
強引に身体の関係を迫られることを懸念したのに、唯野には伝わらなかった。それどころか板井の手に反応してしまうなんて。
「んッ……」
彼自身を強く弱く扱きあげる。本当はもっといろんなところに刺激を与えてあげたいが、ここは会社だ。これ以上の羞恥には耐えられないだろう。
しかも、こんなことをしていると黒岩にバレたら大惨事。ロクなことにならない。
彼に何度も口づけながら、彼自身に刺激を与え続けた。
「あッ……」
唯野は何を思いながら板井に身を任せるのだろか?
先ほどスマホの受話口から聴こえて来た黒岩の言葉。
『俺は諦めない。必ず板井から奪ってやるから』
奪われてたまるものか。
それに唯野はそんな簡単に心変わりする人じゃない。初めこそ不安にもなったが、彼がどれほど自分のことを好きでいてくれているのか知ったのだ。
知ることは人を強くするのだと思った。
──知らないから不安になる。
ただそれだけのことだ。
とは言え、黒岩の執念深さは筋金入り。
簡単にあきらめることはしないだろう。
守ってあげないといけないと思った。
──にしても、きっかけは何だったんだ?
誰かが裏で糸でも引いているのだろうか。
黒岩という男は話してみたらわかる通り、不倫なんてなんのそのと思っている節がある。そして不倫程度では首にはならない会社だということだ。少なくとも、黒岩は。
強気に出られるということは、つまりそういうこと。
──社長がけしかけたってことか。
それなら納得できる。
なにしてくれてんだ! と思いながら唯野の髪をなでる。
「板井……ッ」
「愛してますよ」
「はあッ……」
まもなく彼が板井の手の中で熱を放つのを見ていた。
「好きだ」
「俺も……」
板井は胸の中でぐったりとする彼をぎゅっと抱きしめる。
社長の目的を知らねばならないと思った。そうしなければ黒岩を止めることなんて出来ないだろう。とは言え、相手は社長だ。どうやってコンタクトを取るべきか。
──まずは副社長に話をあげてみるか。
あの人は黒岩総括や修二の営業時代の後輩。
今度こそ何か掴めるかもしれない。
皇の唯野を避けるような態度はとても気になるが。
苦情係では一緒に仕事をしているのに、何ゆえ避けるのか。
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