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見渡すかぎり、木と落ち葉しかないところにぽつんと寂しそうなベンチがあった。
そこに腰かけるコタの隣に、私はいつものように少し間をあけて座った。
「俺のこと嫌いになった?」
いきなり核心に迫るような問いに、心臓がぎゅっと掴まれるようだった。右を向けない。
「そんなこと、ない」
「こういうときは、うそでも嫌いって言ったほうが諦められるもんだよ」
コタは笑って、私は胸が痛くなった。ほんとうに、私は自分勝手だ。
横顔を見る勇気はないから、コタの太ももの上で無防備に放られている手を眺めていた。
「クラスのやつに、別れたって言えばすぐ広まるからさ。最後の噂だけ、消えるまで我慢してくれよな」
別れるなんてひどいことを言ったのに、コタはずっとずっと私に優しかった。
私が泣いたらダメだ、と思うのに、鼻がツンとして目のまわりが熱くなってきた。
涙がやってこないように、目を見開いてコタの綺麗な手に集中していた。
そのとき、ふいにコタの手が私に伸びてきた。
制服のスカートを握っていた私の手に、上から重なる。
驚いて飛び上がった手が開いたところに、コタの指が絡んだ。耳元では、鼓動がうるさく打っていた。
手の感触を思い出すと、また胸がうるさい。別れたのに、傷つけたのに、また来週コタと二人きりで会えるのを待ち望んでいる自分がいた。
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