絶望的観測

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そういえばもう梅雨の時期だっけ。 人々の喧騒が雨音に掻き消されて その分ちょっとした物音が 異様な程に響いた。 湿って濡れた空気が部屋で蒸されて 僕はそれだけで起きる気力を減らす。 君が貸してくれたままの小説を開いた。 夢と希望が存分に描かれた話だった。 つまらないと感じたかった。 これみよがしのハッピーエンドなんて 僕が望む資格なんてない。 本当はこれを書く度に あれがフラッシュバックする。 多分、身体は全力で拒否しているんだろう けれど 僕には記録を遺す義務があるから。 せめて誰も解決できない謎でもいいから 二人しか知らない暗号で、 僕は君を留めておきたい。
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