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「あ、あの……黒川さんっ!」
「……はい?」
突然背後から声をかけられ、私はゆっくりと振り返った。そこには学生服を着た一人の少年が立っていた。
クリクリとしたパッチリの双眸、フワフワと風に揺れる柔らかそうな茶色い髪。そこらへんの女の子よりも女の子らしい見た目だけど、ブレザーにズボンの出で立ちであるため間違いなく男なんだと認識する。
「えっと……」
「隣のクラスの─────です」
「はぁ……」
見覚えのない人から声をかけられ戸惑っている私に、目の前の彼は慌てたように言葉を続けた。
「と、突然すみません。あの……美咲さんにお話したいことがあって……」
「……お金ならありませんよ?」
「違いますし!?」
彼の言葉にマニュアルのような返答をすると、彼は大きな目を更に大きく見開いて噛み付くようにそう云った。
私にとって、見知らぬ人が声をかけてくるなんて有り得ないことだったから、どう対応していいのか分からず戸惑っていた。
「そうじゃなくて……あぁ! ただ話があるんです。放課後、オレの教室に来てもらえませんか?」
「放課後? 今日の?」
「呼び出すカタチで申し訳ないんですけど……」
「……行ける……かな?」
彼の言葉に、私は少し複雑な表情と口調でそう呟いた。すると……
「待ってますから」
「ッ!?」
とびきりの笑顔でそう云い残した彼は、手を挙げて自分の教室へと戻って行った。
私は得も言われぬ胸のザワつきを抑えるかのように胸元のシャツを握り締めた。
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