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~その頬に触れた時……~
|足下に煌めく幾百ものネオンライトたち。生まれてから今までどれだけ見た光景だろうか、と自問した。
私……黒川 美咲は今、自分の住むマンションの屋上にいた。しかも柵を越えて、あと一歩踏み出せば地面へと真っ逆さま。時折吹く風が肩まである髪を撫でる。
そう私は今、自分の人生に終止符を打とうとしていた。飛び降り、というカタチで。
いざ柵を越えてこの場所に立ってみると……足がすくむ。情けない。あれだけの決断と覚悟をした筈なのに。
だけど頭は少し冷静で、“靴脱いだ方がいいのか?”とか“遺書はテーブルの上で良かったのかな?”とか思い始めていた。こんな時に浮かぶのは、今まで関係のあった人たちやイベントなんか。
「走馬灯はまだ早いんじゃないかな……」
なんて苦笑いしてみる。
そして「もういっか……」と思い、一歩踏み出そうとした瞬間だった……
「待って!!」
怒号にも似た叫び声が聞こえて、私は一瞬体を強張らせた。
なぜなら、飛び降りて巻き添えを出さないよう真夜中のこの時間を選んだからだ。
(なのに……声……?)
眼下に視線を落とすけど、下の通りに人影はない。
(となると……)
私はゆっくりと背後を振り返った。するとそこには、明るい栗色の髪にTシャツ・ジーパン姿の長身男性がキョトンとした顔でこちらを見ていた。しばらく見つめ合っていた私たちだけど、彼は少し瞬きを繰り返して自分の背後を振り返った。
「えっと……誰?」
私が訊ねると、こちらに向き直っていた彼は再び後ろを振り返る。自分だとは思っていないのだろうか?
「いや、あなたですけど……」
「あ、オレ!?」
自分にかけられた言葉だと悟るや、目の前の彼は本気で驚いていた。声をかけてきたのはそっちなのに……
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