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「な、何ですか?」
「今すぐここから消えて下さい。さもないと、コレ……投げますよ?」
少したじろぐ彼に、私は真剣な顔してそう云った。私は本気だった。直に当たれば軽傷なんかじゃ済まなさそうだけど……
しかし、彼から返って来たのは予想外の返事だった。
「ドウゾ」
「……ハァ!?」
しれっとそう云い放たれた彼の言葉に、私は思わず手に持っていた欠片を落としそうになる。
(な、何を云ってるの? この人は……)
冗談だと思われているのかと思い、私は少しイラついた声を吐き出す。
「できないと思ってます?」
「……いえ」
「じゃあ……」
「どうせオレには当たりませんよ」
先刻までヘラヘラしていた彼の表情がスッと暗いものに変わる。その表情は哀しみとも諦めとも云えない複雑なものだった。
「私には当てられないと思ってます?」
「いえ、そう云うワケでは……まぁ、百聞は一見に如かず。投げてみて下さいよ」
「なっ!?」
「どうせ死ぬなら人にケガさせても後ろめたくないでしょう?」
意味深に笑い挑発するような彼の物云いにカッとなった私は、欠片を振りかぶると当てるつもりで彼の方へとそれを放る。
だけど……
「ウソ……な、なんで……?」
「……ね? “当たらない”でしょ?」
ゴトゴトと硬質な音を立てながら、欠片は彼の後方へと転がって行く。私はしっかりと彼めがけて放った。欠片も彼の方へと飛んでいった。
だけど、“当たらなかった”。厳密には欠片は彼の体を“すり抜けて”しまったのだ。彼の体はキズ1つついていない。
「ど、どう云う……コト……?」
うろたえる私に、彼は苦笑い混じりに事情を説明してくれた。
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