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「別に開放感とかあるわけでもないですし、他のユーレイとか見たことないですし。あ! そう。一番の誤算はアレですね……」
「アレ?」
「あるでしょう? 透明人間になったら……って云う“アレ”」
「あ、あぁ……」
急に力説しだした彼に、私はどうしたらいいものか分からず曖昧な返事しかできなかった。
「健全な男子なら誰でも考える……女風呂の覗き! です!!」
「健全って……死んでんじゃん、アンタ……」
力説する割にはくだらない内容に、肩の力が抜けて適切すぎるツッコミを入れてしまった私だった。だけど、彼はそんな私のツッコミはスルーで力説を続ける。
「ユーレイになったからには実行するしかない! って思ったんですよ! なのに……なのにですよ!?」
「な、何なんですか」
ズイっと身を乗り出してくる彼に、思わず私を身を引いた。触れないのに。
「入れないんですよ!?」
「……はぁ」
「入れないんです! 建物に!!」
「は、はぁ……」
つまりはこうだ。誰の目にも映らなくなったのをいいことに、彼は欲望の赴くままに行動したが“何かの力”に邪魔されて建物の中に入ることができない……と云うのだ。
「バチが当たってるんじゃないですか?」
「なんでだ!? オレは別に何も悪いことしてないぞ!? 生きてる時に出せなかった勇気を出してだな……」
「死んでからもバチは当たるんですね。勉強になります」
死んだとしても妙に悪いことできなくなってんだな……と、私は何故か冷静になっている思考でそう思った。まだ必死に力説する彼を横目に、私はふと背後を振り返った。このアパートの屋上は、柵はあるものの簡単に越えられる。てか、柵の鍵が壊れてるのである。
「どうしました?」
「え? 別に……」
しばらく自分がいた場所を見つめて静止していた私に、彼は小首を傾げながらそう云った。私は素っ気なくそう返す。
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