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「昼過ぎからでいいから。てか、起きてからでいいのでデートしましょう」
「だから、なんで私の返事なしで決定してるのよ!」
「死ぬ前に何か一つ、明確に良い事してもバチは当たりませんよ?」
そう云った拓斗さんの表情は少し寂しそうだった。口調は変わらず穏やかなのに……
「い、良い事?」
「えぇ。オレが生前したくてもできなかったデート……叶えてください。そしたらオレ、成仏できるかもしれないですし?」
「そんな都合のいい……」
「オレが成仏したら、自殺計画を邪魔する人はいなくなりま……」
「分かった! 引き受ける」
「はぇーな……」
拓斗さんが云い終えない内に返事をした私に、彼はじとっとした目を向けてくる。
「では今から寝て、起きて準備が出来たらマンションのエントランスに来てください」
「……分かった」
「待ってますから」
「ッ!?」
瞬間、私の脳裏に小さな衝撃が走った。
『待ッテマスカラ』
いつだったか……遠い昔にもそう云われたことがあったような気がするのだ。しかも、今の拓斗さんのような飛び切りの笑顔で。だけど、どこで誰との会話だったのかは全く思い出せない。
私は複雑な気持ちのまま、拓斗さんに「おやすみなさい」と残して自分の部屋へと帰っていった。
「……もう二度と同じことは繰り返したくないんですよ……美咲さん」
拓斗さんの呟いた言葉は、呆然とした私には届かず私と拓斗さんを隔てる屋上のドアはゆっくりと閉まった。
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