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「はい。では、お話しますか?」
そういって校長は尻のポケットからスマホを取り出した。男はみるみる青ざめていく。
『ああ、だが、話をするのは小野先生とだ』
校長はそのスマホの画面を小野美咲に向けた。そこには見知らぬおじいさんが映っていた。おじいさんが話しかける。
『申し訳ない。熱意あるよい先生に対する暴言、バカなクレーマーの親として心から謝罪する。ついさっきな、孫に聞いたよ。小野先生はすごくいい先生だって。僕のことを考えてきちんと叱ってくれる先生だって。本当に申し訳ない』
「あ、いえ・・・」
小野美咲は、先ほどまでの悔しさも忘れて、状況を理解できずにぼんやりとしていた。
「明日、謝罪に伺います。本来ならば、すぐに飛び出していき、謝りたいところですが、時間も遅く小野先生を待たせてしまうのもいけないので。」
「先輩、お父様とは」
校長が下を向いて震える男の方を見ていった。
『あぁ、親として情けないが、バカなクレーマーとなった息子とは今は話せない。そいつを殺して切腹したいところだが』
「いえいえ、やめてくださいよ」
『石田、すまんな。明日、朝一でそちらに伺うのでよろしく頼む』
そういって、電話のおじいさんは早々に電話を切った。
「村田先輩は、私が初任の頃にお世話になった仲の良い先輩なんです」
男はぶるぶると震えて小さくなっていた。
「もう、今日はお帰り下さい。」
校長の言葉に、とぼとぼと力なく職員玄関に向かう男。
「あ、お父さん、待って」
すると、思い出したように校長が男を呼び止めた。男が振り向く。
「とりあえず、謝罪。うちの教員に。でなければ、警察を呼びます」
(あっ)
青ざめる男が膝をついた。
「申し訳ない。ごめんなさい」
そういって帰っていった。その日から、校長の株が急上昇。仕事をしない昼行燈に変わりはないのだが、いざ、夜になれば煌々と明るく照らす守護神のような存在となった。
【終わり】
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