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「あなたのしていることは恫喝です」
(え・・・)
一瞬時が止まったかのように静まった。腰の低い態度と媚びた笑顔の校長が消えた。男がひるんだのは一瞬だけ、
「なんだと?」
火に油を注ぐ言葉に、顔を真っ赤にして校長の胸ぐらを掴む。
「これは暴行だ。手を離せ」
落ち着いた声からドスのきいた低い声に変わる。今にも殴りかかるのではないかと思える校長の顔に、男は怯んで手を離した。
「宿題忘れを叱るのは教育だ。『怒る』ではなく、『叱る』だ」
今度は校長が一歩前に出る。校長は続ける。
「宿題忘れは犯罪でもなければ悪でもない。」
「だったら」と話をしようとした男の言葉を遮って、
「ただ、社会に出たらどうなる。」
校長の声のトーンは落ち着いてきている。
「社会に出て会社で頼まれていた仕事を忘れたらどうなる。『忘れてしまうのは仕方ないよね』では済まされないんだ。そんなこと、社会に出ているあなたならわかるはずだ。いつまで子供を守るつもりだ。親として学ぶ機会を奪うことをしてはいけない。」
小野美咲だけではない、職員室で聞き耳を立てている職員の全てが驚いた。頼りない普段の校長からは想像できない言葉。呆然と聞いていた男だったが、引き下がるつもりはないらしい。
「うちの子は泣いて心が傷ついているんだよ。心を傷つけられているのに…」
「お父さん、あなたはそんな風に育てられたのですか?」
「あ?俺のことは関係ねぇだろ。時代が違うんだよ」
「時代は違うが、子供は変わらない。育てるべきことも変わらない。あなたのお父様は教員でしたよね。そしてお母様はPTAの会長をしていたとか」
男ははっとして顔色が変わる。
「調べてんのかよ、人のこと。」
「あなた、有名ですよ。クレーマーとして。私が赴任してくる前も本校に文句を言いに来ていますね。さらに前には保育園でも問題になっていたとか」
「俺は正しいことをきちんと言ってきただけだ」
「私達と同業だったお父様はあなたをどう育てましたか。おそらく厳しく育てたはずです。人に対する思いやり、礼儀や態度など、我が子が世間に出て恥ずかしくないよう一生懸命に」
「お前になにがわかる!」
「わかりませんよ」
「わからない他人に偉そうなことを言われる筋合いはない」
あきらかに男は動揺している。校長は「そうか」と大きくため息をついた。
『石田、もういい』
どこかから声が聞こえた。
(ん?)
小野美咲はその声の方に視線を向ける。そこは、校長の尻…。
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