教育の未来~大逆転~

4/5
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
「あなたのしていることは恫喝です」 (え・・・) 一瞬時が止まったかのように静まった。腰の低い態度と媚びた笑顔の校長が消えた。男がひるんだのは一瞬だけ、 「なんだと?」 火に油を注ぐ言葉に、顔を真っ赤にして校長の胸ぐらを掴む。 「これは暴行だ。手を離せ」 落ち着いた声からドスのきいた低い声に変わる。今にも殴りかかるのではないかと思える校長の顔に、男は怯んで手を離した。 「宿題忘れを叱るのは教育だ。『怒る』ではなく、『叱る』だ」 今度は校長が一歩前に出る。校長は続ける。 「宿題忘れは犯罪でもなければ悪でもない。」 「だったら」と話をしようとした男の言葉を遮って、 「ただ、社会に出たらどうなる。」 校長の声のトーンは落ち着いてきている。 「社会に出て会社で頼まれていた仕事を忘れたらどうなる。『忘れてしまうのは仕方ないよね』では済まされないんだ。そんなこと、社会に出ているあなたならわかるはずだ。いつまで子供を守るつもりだ。親として学ぶ機会を奪うことをしてはいけない。」 小野美咲だけではない、職員室で聞き耳を立てている職員の全てが驚いた。頼りない普段の校長からは想像できない言葉。呆然と聞いていた男だったが、引き下がるつもりはないらしい。 「うちの子は泣いて心が傷ついているんだよ。心を傷つけられているのに…」 「お父さん、あなたはそんな風に育てられたのですか?」 「あ?俺のことは関係ねぇだろ。時代が違うんだよ」 「時代は違うが、子供は変わらない。育てるべきことも変わらない。あなたのお父様は教員でしたよね。そしてお母様はPTAの会長をしていたとか」 男ははっとして顔色が変わる。 「調べてんのかよ、人のこと。」 「あなた、有名ですよ。クレーマーとして。私が赴任してくる前も本校に文句を言いに来ていますね。さらに前には保育園でも問題になっていたとか」 「俺は正しいことをきちんと言ってきただけだ」 「私達と同業だったお父様はあなたをどう育てましたか。おそらく厳しく育てたはずです。人に対する思いやり、礼儀や態度など、我が子が世間に出て恥ずかしくないよう一生懸命に」 「お前になにがわかる!」 「わかりませんよ」 「わからない他人に偉そうなことを言われる筋合いはない」 あきらかに男は動揺している。校長は「そうか」と大きくため息をついた。 『石田、もういい』 どこかから声が聞こえた。 (ん?) 小野美咲はその声の方に視線を向ける。そこは、校長の尻…。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!