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はしまきの事なら隆から聞いた。
「薄いお好み焼き生地みたいなのを、割り箸に巻いたやつ」だそうだ。
後で調べたら、どうやら関西以西のお祭りでよく食べられているものらしい。そういや隆は広島出身だった。
で、なんでそんな事を急に思い出して作ってみる気になったかというと、バイト先は休業中、帰省もするな外出も控えろと言われ、要するに暇だったから、ってだけなんだが。
スマホでレシピサイトを検索すると、案の定複数の作り方が登録されている。その中からいま家にあるものでできそうなものを選んで、台所に向かった。
「粉とキャベツと卵と……だしの素に水、と」
材料を混ぜ、熱したフライパンに適量ずつ広げて焼いていく。
「おっと、あと割り箸……」
買った弁当についてきて使わなかったものがそれなりに溜まっている。両面焼いた生地をくるくると巻きつける。
「簡単そうに書いてあるけど……結構難しくね?」
ぶつぶつ言いながら出来上がったものは、かろうじて「巻いてある」と言えなくもない代物で。
「これでいいのかなあ」
フライパンに2枚目の生地を広げ、冷蔵庫からソースとマヨネーズ、青のり、そして缶ビールを取り出す。
ぷしゅっ。
生地の様子を見ながらまずはぐびり。そして人生初の「はしまき」に調味料と青のり、おかかをかけて、
「いっただっきまーす」
思ったよりもちもちした食感。キャベツの歯応えが程よいアクセント。青のりの香りとソース、マヨネーズの塩味と酸味、それに甘み。
「ああ、これは」
ビールを一口。
フライパンの生地をひっくり返し、「はしまき」を一口。
「たまらんねえ」
もちもち、シャキシャキ、ぐびり。
また割り箸を出して、くるくる。
「お。今度はうまく巻けたんじゃね? 天才じゃね、俺?」
もちもち、シャキシャキ、ぐびり。
「なあ。こんな感じでいいのかな?」
隆に問いかける。
返事は、なかった。
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