ほしいもの味

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 「とまあ、これがつまらないおっさんの身の上話さ。」  俺は秘書に30年前自分に起きたことを話した。  「上京してからはご両親とはお会いしてないんですか?」  彼女は今にも泣きそうな顔で聞いてくる。  「ああ、一度も会ってないな。行先は伝えなかったし、おそらく俺がどこにいるかも知らないだろう。まあ、今となっては生きているかすら怪しいけどな。」  「そんな…悲しいこと言わないでくださいよ。」  彼女はもう当事者と言わんばかりの悲しい表情を浮かべている。  「いいんだよ。もう昔のことだからさ。」  「でも…、じゃあ一度ご帰郷なさって見てはいかがですか?きっとご両親も喜ぶと思いますよ。」  彼女はそう提案したが、俺は答えなかった。  代わりに、「じゃあ、仕事始めるか。予定も詰まってるしな。」と話を切り上げた。  彼女は不服そうな顔をしたが、これ以上話すべきではないと判断したのか、この後の予定を俺に告げ、社長室を後にした。
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