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ドン、という音が聞こえてパラパラと瓦礫の粉が舞い落ちる。このままでは本当にリカが危ない。そう思い必死にエッグの中から操作し瓦礫を退かしていく。退かせど退かせど落ちてくる瓦礫に、AIロボットの指先は半分以上壊れ、本体とのリンクも安定しなくなってきた。そんな中で少しずつ薄れるリカの意識。
「リカ!リカ!リ──『本物を呼んでください!』」
タクミがリカの名を呼び続けていた時、その声に重なり誰かが、いや、確かに自分の声が叫んだ。でもそれはリカでもタクミでもない、リンクにノイズが走って本体と分離しかけているAIロボット、それが口にした言葉だった。
「タクミさんですね?分かっています、私はタクミさんでもあるんですから。だから分かるんです、早く来てください。今リカさんに会わなければ一生会えなくなるかもしれないんですよ、それでもいいんですか?タク──さん」
走るノイズにタクミの気持ちが焦る。久しくエッグから出ていないという恐怖と、リカの安否。そのふたつを天秤にかけることすらせずにエッグの強制排出ボタンを押して外へ出た。丸一年も運動をしていない足腰は筋肉が落ち、立つのがやっとだった。それでも。行かなければならない。リカの元へ。
タクミは走った。
元々、タクミが電脳化を強く望んだのには理由があった。小さくひ弱な自身の身体をコンプレックスに感じ、もっとちゃんとリカを守れるような強い人間になりたい、そう願ったのだ。だからこそ、とタクミは精一杯の力を振り絞る。守るということが一番の目的なら、今この身体でリカを救うために駆け出せなかったら、たとえ世論がどちらともを本物だと認めていたとしても、それでも、どちらが本物なのか分かったものじゃない。
「タクちゃん……?」
リカはタクミの口調が突然変わったことにも、タクミがまるでタクミでないみたいに自分に話しかけてくることにも頭が追いつかなかった。二人の関係がこうなってから初めて、目の前の彼があくまでもタクミの入れ物に過ぎないのだということを突きつけられた気がした。
「今からタクミさんが来てくれますよ、リカさん」
朦朧とする意識の中、ほんの少しの寂しさと、彼が口にした言葉への期待に胸をざわつかせる自分に、薄い笑みを浮かべた。
そして完全に本体とのリンクが切られ、カクンと力が抜けて膝をついたAIロボットはといえば。
完全な、ポンコツロボットになってしまっていた。
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