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上手く力の入らない足に舌打ちをしながらほとんどヤケクソに走ったタクミは、ようやく爆発現場に着いた。規制線が引かれ中には入れないようになっていたが、制止も無視してエッグのモニターに映っていた場所を探す。確かもっと奥の、右の方。
「リカ!」
「タクミさん!大変です、腕が、腕が邪魔なんですよねぇ。腕をどうにかできれば……」
「へ?」
タクミはリンクを切る前の、ノイズが走ったあの一瞬の、まだ正気を保っていたAIロボットとしか話していなかったため、そして無我夢中で走ってきたために、AIロボットがポンコツロボットになっていたのを知らなかった。
「リカ、大丈夫?」
「タクちゃん……来てくれたんだ……あ、そんなに痩せちゃって、もう」
「俺のことはいいんだよ……リカ、怪我は?挟まってるだけ?どこか痛いところはない?」
こんな時に不謹慎だとタクミに怒られそうで言うのは止めたが、リカは久々に聞いた生身のタクミの声に温かいものを感じて安心していた。
「リカ?」
「あ、うん。大丈夫。腕が少し挟まってるからそれが痛いくらい、かな」
「待ってて、絶対に助けるから」
少し離れたところでウロウロしながらまだ「腕が……」とブツブツ言っている自身の分身にタクミは助けを求めた。
「なあ!あの鉄骨をテコの原理でここに挟めば隙間ができるはずだから手伝ってくれないか?」
「さすがです!私では思いつきません!やっぱり人間というものは凄い可能性を秘めて──」
「そんなこと今はどうでもいいから!お前のパワーが今は頼りなんだ、頼む、助けてくれ」
タクミが考え、指示をし、ポンコツロボットがそれに従って人間よりも強い力で少しずつ物を動かす。
そんな中、ポンコツになってしまった自身のAIロボットを目の前にしたタクミは複雑だった。自分の理想をつぎ込んで作ったAIロボットが、今やポンコツと成り果てていることに。そして、理想からはかけ離れたものになっている目の前のAIロボットが、それでもなおリカを助けようと自分の力で奮闘しているその様に、例え難い感情を抱いていた。
俺だったものが、俺でなくなっていく。そう思うと今まで自分を覆っていてくれた鎧が一気に崩れていくようで、不安になる。
けれどそれは、今のこの場には不要な不安だった。必死に首を振ってそれを取り払ったタクミは、より一層鉄骨に力を込めた。
一瞬。ほんの少しの隙間が空いた瞬間にタクミはリカの手を掴んで引き寄せる。
「リカ!」
「タクちゃん……」
「凄いです!凄いです!わーい!やったー!」
「やっぱり、タクちゃんはそのままでもかっこいいね」
「……そうかな」
砂埃と汗でベタベタになった頬を指で掻き、照れくささを隠すタクミの後ろでポンコツロボットは喜び続ける。
「やったやったー!」
タクミはそんな自身の分身に苦笑いをしてリカに話しかける。
「無事で良かったよ」
「タクちゃんのロボットが話し相手になってくれてたから、痛みも紛れたよ」
「……あいつ、本当はあんなんなんだな」
「なんか、こう、憎めないよね」
すると向こうから血相を変えて走ってくるポンコツロボット。
「大変です!まだ向こうにも人が!」
「え?」
リカとタクミの重なる声。
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