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「ここです!大変です!腕が今度は引きちぎれちゃって──」
そこにいた、いや、あったのは、ひとつのくまのぬいぐるみ。それは抱えて持つほどに大きく、確かに一瞬人間にも見える程だった。おそらく爆発で巻き込まれた隣のぬいぐるみ専門店のものだろう。
「なんだ……びっくりしたぬいぐるみか……」
「大変ですよ!早く助けないと!」
安堵するタクミと慌てるポンコツロボット。そして優しく話しかけるリカ。
「大丈夫だよ。よいっしょ、っと。ほら、ここ、ほつれてるだけだから、後で縫ってあげれば大丈夫。平気だよ」
リカは器用にくまの首元に付けられた赤いリボンを結び直しながら言う。
「この子の家族は……どこにいるんでしょう?ひとりですか?寂しそうです……」
「その子のこと、気になるの?」
「はい」
そう言いながら優しくほつれた場所を撫でる彼の方が、よっぽど寂しそうにリカには見えた。
「独りぼっちは可哀想だからお友達になってくれる?」
「任せてください!」
「よろしくね」
リカがそっと差し出すと、ポンコツロボットはそれ以上にそっと、新しい友達を受け取った。
その直前にバーコードを読み取り電子決済を済ませそのぬいぐるみを手際よく購入している様を見て、タクミはさすがだな、と妙に納得してしまう。リカはこういうことがさらっとできてしまう子だから、本当は俺なんかよりもずっと頼りになる。
近づく救急車の音。
「リカ、救急車に乗って病院に行くんだよ」
「タクちゃんは?」
「俺はエッグに戻ってそれから向かうから。この体じゃたぶんもう何の役にも立たないし」
後ろでは買ってもらったぬいぐるみを大切に抱きしめているポンコツロボットが二人の会話を静かに聞いていた。
「タクちゃん、最後にぎゅーして?」
「ああ、いいよ」
何も考えずにした抱擁。タクミにとってはいつもと変わらない、エッグの中からの抱擁と同じはずだった。けれど。普段の機械越しに伝わってくる擬似感触と比べてしまえば、そしてこんなにも温かな体温に触れてしまえば、あれだけ安心な場所だったはずのエッグに戻るのが怖くなってくる。タクミは、先に腕の力を緩めたリカを追いかけるようにもう一度強く抱きしめた。あれだけ固執していた電脳化を辞める、そんなことが頭をチラついた。
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